葬儀社に勤めていた人から聞いた話
別府崇史
せっかちな人
葬儀社に勤めていた薫さんは不思議な体験をされている。
「数珠パァーンなんて当たり前なのよ。あんまりに破裂するもんだから、数珠なかったら太っちょのあたしがパァーンされるんじゃないかと思ってビクビクもんだったわ」
そうケラケラと笑う薫さんは、いかにも肝が据わっているように見えた。
「辞めた理由は別に怪異現象が多いからじゃないの。そんなの慣れちゃうのよ案外。お家帰ってご飯ぱくぱく食べて寝れば忘れてるの。ただもう忙しくて忙しくて。高齢化社会って実感するわよ、あそこにいると。よく同僚と言い合ってたわ『休めるのって友引くらい』って」
葬儀社の業務の一つには遺体の搬送がある。
病院から、自宅から。あるいは警察からの遺体安置所から。
老人ホームから斎場への搬送も多い。
老人ホームには設備の性質上、霊安室が設置されてることがあるそうだ。
ホームから連絡あって、ご遺体をお迎え行ったのね。通常そこのホームだと八時過ぎたらエレベーターがロックされるの。ボケた高齢者が迷い込んじゃうから。そうなったら大事でしょ? 介護スタッフの人が大変でしょ?」
確かにと私は頷いた。霊安室に迷い込んだ老人を探しにいく業務はかなり辛そうである。
ただ、と薫さんは続ける。たまにロックかかっていないことがあるの。
「初めての時はビックリしたわ。いつも夜の搬送は警備員さんにお願いしてロック解除してもらうんだけど、エレベーター動いてたから、あぁ今日はたまたまロックしていないのかなぁって思ったの。で、地下の霊安室に降りていった途端」
ガッタン。
鈍い音がしたかと思うとエレベータにロックがかかった。
慌ててボタンを押しても反応はなかった。
(こんなタイミングってあるの……)
薫さんの目前には老人の遺体が横たわっている。
怖くはなかった。
自分でも意外に思うほど、落ち着いていた。
ため息をひとつついてから、スマートフォンで老人ホームの受付に電話しロックを解除してもらったという。
待っている最中、薫さんは手間のかかった祖父の介護を思い返していた。
「なんていうの、早く来てくれって急かされる感じかなぁ。はいはいお爺ちゃん、今いきますよ、そんな慌てないのって感じで、しょうがないなぁって思えてさぁ」
その後も同様の現象が度々起きたが、次第に薫さんは『そういうものだ』という認識になったという。
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