高志とエルヴァン魔法学校
トカゲ
魔法学校編
魔法学校からの誘い
第1話 高志と学校案内
バリバリとバリカンが頭の上を奔る。
伸びきった髪がバリカンによって勢いよく刈られていく。床にバサバサと黒髪が落ちて、少年の頭は草原から焼野原へと変化していく。
何も知らずに髪を刈られている少年の名前は加藤 高志という。
彼は6歳になって少し自意識が芽生えたのか、何時も髪を切ってくれている母の清美に初めてスポーツ刈りにしてほしいと注文を付けていた。
何時も見ているアニメの主人公と同じ髪型になれるとワクワクしながら髪が切り終わるのを待っていると、しばらくしてバリカンの音が止んだ。
「できたわよ」
鏡を見た高志は顔を歪ませた。
あれだけお願いしたのに丸坊主になっている。さっきまであった高志の髪は無残にも床に落ちていた。
高志はまだ6歳の幼い少年だが、もう6歳の少年とも言える。自意識が芽生えてきている彼にとって、丸坊主で過ごす生活というのは絶望の一言だろう。
「ひどいよ母さん! スポーツ刈りにしてって言ったじゃないか!」
「坊主だって似合ってるわよ。良いじゃない、それでも」
しかし清美も悪気があった訳じゃない。
彼女は高志が生まれるまでバリカンを持ったことがなかった。バリカンを使うようになってからも常に丸坊主しかやってこなかった清美にとって、スポーツ刈りは技術的に難しすぎたのだ。
高志は清美に文句を言うが、それで自分の髪が戻って来ることはない。
床に落ちた髪はもう自分の元に戻ることは無いのだ。
高志の頬を一筋の涙が奔った。
しばらくして落ち着いた高志が夕刊を取るために郵便受けを覗くと、夕刊のほかに一通の便箋が入っているのが見えた。
【加藤 高志様へ エルヴァン魔法学校説明会のお知らせ】
それは高志にとって生まれて初めての自分宛の手紙だった。しかも普通のハガキではなくA4サイズの立派な便箋だ。
何だか自分が偉くなったような気がして、高志はウキウキと母に便箋を見せに行った。
「お母さん、見てみて! 僕に手紙が来たよ!」
「あら良かったわね。でも何の手紙かしら?」
清美はあれだけ怒っていた高志の機嫌が直ったことに安堵し、そしてそんな息子が持ってきた大きな便箋をみて首を傾げた。
宛先を見てみると確かに高志に向けて宛てられた物だったが、6歳になったばかりの彼にこんな手紙が来るのだろうか?
「えっと、エルヴァン魔法学校説明会のお知らせ?」
高志から受け取った便箋には大きくそう書かれていた。
なんと言うか、今まで生きてきた中でここまで怪しい手紙があっただろうか。
「魔法学校って何よ。ちょっと気になるじゃない」
普通だったらただのイタズラと笑うところだが、この便箋はそういった感じが全くしなかった。少なくともイタズラの手紙に封蝋をする人を清美は知らない。
手の掛かった便箋を見て清美はこの手紙に少し興味が湧いた。
「これは説明会の案内なのよね? 高志、お母さんも一緒に読んでも良い?」
「いいよ。だけど封を開けるのは僕がやるからね!」
「はいはい」
高志に便箋を開けてもらって中を見てみると、そこには小冊子と紙が2枚入っていた。小冊子は外国にありそうな中世の城が表紙を飾っている。
「エルヴァン魔法学校ってくらいだし、外国の学校なのかな? でもこの小冊子は全部日本語なのよね。どういうことなのかしら?」
「お母さん、僕にも見せてよー!」
「はいはい。でも、漢字が沢山だから読めないと思うわよ?」
「そんなの僕だって読めるよ!」
清美は機嫌が悪くなりそうな高志を見て苦笑し、彼に小冊子を渡した。
高志は嬉しそうに小冊子を受け取ると、居間の方に走っていった。
「あら、説明会は近所の公民館でやるのね? 面白そうだし行ってみようかしら?」
清美が残った2枚の紙の方を見てみると、それは説明会のお知らせと会場への地図だった。高志の通う小学校はもう決まっていたが、小学校の入学式までまだ日にちはある。
何よりも清美はファンタジーな世界が大好きだったので、単純に行ってみたいと思った。
「お母さん、僕、小学校はここに行きたい!」
気が付くと目を輝かせた高志が小冊子を開いて立っている。
高志も行きたいと言っているのだし、これは仕方がない。清美はそう考えて頷いた。
「じゃあ明日の説明会、一緒に行く?」
「行く!」
その後は親子一緒に小冊子を読みふけり、仕事から帰った父の太郎を呆れさせたのだった。
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