竜國の魔女の声

トギひさか

序章 湖の大樹



青々と茂る自然に囲まれた湖畔に紫乃は立っていた。


澄んだ色の空の下、広大な湖面が目に眩むほど陽に反射しており、

湖の中心には周りの木々と比べようもない程の大樹が聳えていた。


背を反らして真上を見ても青葉がどこまでも続いていて天辺が見えない。



相当な樹齢を重ねているに違いないと思いながら、紫乃は周りを見渡してみた。


こんなにも自然の中にいるのに、虫や動物の声が一切聞こえてこない。


まるで、全ての生物が話し方を忘れてしまったかのような、不気味な静けさが只管に続いている。



風さえ吹かないこの場所には、自分が草を踏みしめる音以外に何も聞こえない。


その筈なのに、どうして見られている様な気配がするのだろう。

得体の知れない者がいるのではと、紫乃はぞっと身震いをした。


そのおかげか、朧気だった頭が少しずつ覚めてくる。


「誰かいるの?」


高々と聳える大樹を見ながら呟いた声は虚しく消えて、紫乃は目を瞑る。



とりあえずここから離れようと、森の拓けた場所に向かった瞬間に、か細い声が聞こえた。





『あなたも・・・おなじなの?』



紫乃は慌てて辺りを見渡したが、そこには先程と変わらない森閑とした湖畔があった。


拙く掠れた言葉がどこから聞こえたのか分からないが、まだ年端もいっていない少女の様な声だった。






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