山村異聞

奈古七映




 父の生まれ故郷は、東北地方の山村である。


 幹線国道に近い村の入り口あたりは、コンビニがあったりホテルや民宿が建っていてひらけた雰囲気なのだが、県道を奥へ進むにつれ田んぼと点在する民家しか見当たらなくなる。

 その県道は奥羽山脈の裾野とぶつかると、くるりと半円を描いて元来た道に戻ってしまう。袋のように、奥が行き止まりになっている村なのだ。


 とりたてて何か「売り」があるわけでもなく、だからといって過疎化が進むほど貧しい地域でもない。


 村の人たちはけっして閉鎖的ではないのだが、そこを訪問して色々な話をすれば、彼らが独特な価値観を共有していることに気が付くだろう。



――あの家は祟られてるんだよ。


――死んだ子供にウチの子が引いていかれると大変。


――深夜に通ると女の霊が立ってるんだって。



 そういう霊的な話を、老若男女が真顔でする。


 ごく普通の世間話として。



 あの村では怪異というものは特別ではなく、信じるとか信じないという話ではないらしいのだ。


 言うなれば、身のまわりで普通に起こるありふれた現象……それが村における「怪異」の共通認識なのである。



 そんな村で、私自身が小耳にはさんだことのある怪異の噂を、少しだけ紹介していこうと思う。

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