狭い世界④

  いつも真剣勝負をしているこの地区は通称貧民区と呼ばれる区域である。円形に作られた王都で十字にひかれた大通りから離れる程警備兵と税金が減るシステムで、日々の生活が苦しい者ほど治安が悪く寂れた地区に追いやられて行ってしまう。

 この為王都では多くの人が自分が住む等級より下の地区には殆ど近寄らない。

 しかし、ラルシュレイ相談所としてお客は大体貧民区の住人である。クルノ達の様な王国ギルドに所属していない駆け出しの傭兵は基本的にあまり信用されないせいでもあるが、報われない者にも力を貸せる相談できる場所という方針で貧民区の住民

――特に子供には安く仕事を請けている。


「ノア、重要な話がある。……今月の支払い厳しい」


 町の寂れ具合と自身の財布の具合を重ねて、クルノが呟く。

 貧民区に住む人をメインにしているせいで報酬が少なく、クルノ達も貧乏だった。

 二人とも無言で歩き続ける。貧民区はまだ明るい時間なのに人通りは少ない。


「いつもの事じゃん。大丈夫、まだもうちょっと日にちあるし何かしら仕事あるでしょ」


 ノアが一蹴する。

 クルノの中で今になってあの商人達への怒りが再燃する。成功報酬さえ貰っておけば今月は足りたのだ。


 少しイライラしながら歩いていると、すぐ前の曲がり角から一人の女の子が飛び出してきた。

 歳は十、十一程の幼い少女だ。幼いながらも既に将来が楽しみになるほどの美貌が見え隠れしている。

 茶髪に葉っぱの様なアクセサリーを身につけた白を基調としたワンピースの少女である。

 顔立ちも身なりのよく、明らかにこの区域に住む者ではなかった。

 少女は左右を見渡し、クルノ達に気づいて一瞬止まる。危険ではないと判断されたのかそのまま駆け寄ってきた。


「傭兵と、お見受けします。助けて下さい!」


 肩で息をしながら少女は懇願する。クルノ達に断る理由はなかった。


「事情を教えてくれるかい?」


 クルノはしゃがんで優しく聞く。少女は息を整えるのに精一杯で上手く言葉が出てこないようだった。

 ノアは一歩前にでる。


「時間切れみたいだぞクルノ?」


 クルノと少女の視線が集まる。

 少女が飛び出してきた角から黒い服に身を包んだ男が二人現れたのだった。

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