狭い世界②
緊迫した空気が辺りを支配する。
夕日が辺りを紅く彩る時刻、王都の朽ちた木造の家が入り乱れる一角にある空き地に、お互いの武器を模した木製の得物を構えた傭兵が二人。
短槍使いのクルノと、二刀流の剣士ノアだ。
「じゃあ、始めるぞノア」
そう言って、クルノはその辺りにあった小石を軽く空に投げる。
ふわりと宙を舞った小石は重力に引かれ、そのまま地面に落ちた。
その瞬間。二人は競い合う様に素早く一歩踏み出す。
まず仕掛けたのはクルノ。
懐に隠してある短剣をノアに投げつけ、相手の視界から外れながら迅速に距離を詰める。
クルノの強みは圧倒的な身のこなしの軽さと、槍という得物のイメージに反した近距離格闘術である。
ノアがクルノの投げた短剣を弾いた瞬間、視界の端で至近距離まで接近していたクルノの凄まじい速さの突きが放たれた。
ノアはそれを体を捻って紙一重で避けるが、攻撃は止まらない。
クルノは突きの勢いを活かし、流れるように跳び膝蹴りを繰り出す。
それに対しノアは下手に抵抗せず後ろに倒れこんだ。避ける事も防御することも間に合わないと思われたクルノの渾身の膝蹴りは対象を失い、逆に隙が出来る。
ノアはそれを逃さず、クルノを巴投げの要領で蹴り飛ばした。
クルノは地面を転がって受身を取り素早く立ち上がる。顔を上げた時には既にノアの剣が目前まで迫っている。
クルノは袈裟切りに放たれた右手の剣を短槍を振り上げて弾き返し、そのまま槍を手放して横なぎに振るわれた左手の剣を短剣で受け止める。
その瞬間、クルノは空いた右脇腹に蹴りを放つ。
しかし、ノアも負けじと弾かれた剣を手放し、クルノの蹴りを腕で受け止めた。
不安定な体制から放たれた一撃だが、ノアの動きを一瞬止めるのには十分だった。
クルノは反動を活かして後ろに跳び、バク転をしながら地面に転がった短槍を拾う。
距離が開き、仕切り直しとなった。
「やるじゃん」
左手の木刀を投げ捨て、背中に背負った一回り大きい木の長剣を取り出しながら、ノアが言う。
二刀流用に短く細い剣と違い、手数は減るが一撃の威力とリーチが段違いになる。
基本的には固い魔物と対峙する時に使うサブ武器だが、こっちでもノアは強い。
「そっちこそ」
クルノの口元が緩む。
世知辛い世の中や未知の能力を持つ謎の少年の事、新種の発生なんて忘れる程に、クルノは本気で楽しんでいた。
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