第8話 旅立ち

「で、自分の専属パーソナリティを探す、これが最後のルールよ。」

知子は話し終え、ふぅっと息を吐いた


それを見たユイは髪を指でクルクル巻きながらボソリと言った。

「…じゃあ別々に行くって事?」


こんな状況では1人で生きていけない。

どこまで行けば自分のパーソナリティに会えるのか…

まだ13歳の少女にはあまりに不安だった。


「ユイちゃん、仕方ないよ。きっと初めからそう言う運命なんだから。」

知子は冷静に答えた。


「あんま近くにいると、ラジオが雑音で聞こえなくなるから、行くね。」

知子はすっと立って、パンパンとスカートを叩いた。


「うん…じゃあね」

ユイは知子の顔を見ずに言った。

スタスタと歩く知子はピタリと止まって振り向きながら言った。


「そう言えば、私…高2だから。」

えっ?とユイが顔を見上げた


「じゃあ、元気でね!」

そう言ってスタスタとまた歩き出す。


「歳上なのにタメ口聞いちゃた…」

ユイはまた顔が真っ赤になった。




少し時間が経ち、雨がやんだ。辺りを真っ暗な闇が覆う


ユイはラジオの電源を入れた。


『ザザ…』


アンテナをグルグルと回し、電波…いやもう周波数とかは関係無いが、

声を送って来ている方向を探した。


『こんばんは。』

ある方向で、いつもの声が聞こえた。


「…こんばんは」

ユイは自分に送られているメッセージだともう分かっている。


『ユイちゃんごめんなさい』

名前を呼ばれて一瞬ハッとしたが、特に驚く事は無かった。


「大丈夫。」

こちらの声は聞こえないけど、返事をしたかった。

ユイはまた1人になるのが嫌だったからだ。


『昨日はラジオを持った女の子に会ったはずね。全部聞いてるよね。』


「………」


「えっ!?昨日?」


『1日考えて、色々と頭の中で悩んだと思うわ…黙っててごめんなさい』

「ちょっと待って!1日ズレてる」


ユイは頭の中で一瞬で整理できた。

今日1日が繋がった気がした。ラジオから聞こえた天気の相違、

地震の話、女の子に会った日。全てが今日起こった事だった。


ユイはまたパニックになったが、すぐに理解した。


「これは、予言のラジオなんだ。」

「今話している事は明日の話だ。」

だから聞いていれば生き延びられるんだと気付いた。ラジオは過去の話をしてる。ラジオからしたら今は過去の自分がいる、もしかしたら自分の未来を変える事ができる。時間は1日だけだけど。そう思うと、少し希望が見えた。


「今日は何日だろう…」


3日前の曜日と日にちを必死に思い出す。何をしたか、何を話したか

学校に行って、先生が社会見学の話をして…頭の中を映像がグルグルと回った。

「あ!やっぱり今日13日だこのラジオ明日の話をしてる!でも何で…」


『ユイちゃん、私に早く会いに来て』

『待ってるわ。ここに来たら全てを話す。最初から最後まで、全部終わりまで話す!』

『そしてあなたが始めるのよ!』

『私は終わりまでのラジオ、そこからはまた、あなたが始めるの…さあ勇気を出して私に会いに来て。』


ユイは頷いた。 とにかく今自分はこの人に絶対会わなきゃいけない。

生きる目標ができた気がした。


冷静を取り戻したユイは横に落ちていた赤いビニール製の鞄に気づいた。

今まではそこにある事に気づいていなかった。


「あ、これ…」







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