モンスター病棟の英雄医師

ちびまるフォイ

手負いのモンスターはこちらへ

モンスター病棟には今日も忙しかった。


「ちくしょう、勇者の野郎が……」


「大変でしたね。はい、ウロコあけて」


リザードマンの治療を終えると医者は次の患者を入れる。


「はい、次のコボルトさん。どうぞ」


「先生、お願いします。もうHPが尽きかけてるんです」


「大変ですね。すぐに治療しましょう」


「まったく、勇者が来てからってものこっちは気が気じゃないぜ。

 あいつレベル上げのためにわざわざ巣穴まで入りこんでくるんだぜ」


「それはひどい」


「誰かあの勇者を消してくれねぇかな……」


「難しいでしょう。伝説の勇者というのは資質があるからなれるわけで

 資質があるということはイコール強者ですよ」


「はぁ……勇者にも先生みたいな優しい心があればなぁ」


「私は優しくないですよ」


医者はコボルトの治療を終えると、ひと段落した。

ちょうど看護師がやってきて飲み物を差し出す。


「先生、お疲れさまでした」


「ありがとう。最近は特に患者が多いみたいだね……。

 こんな無理はいつまでも続かないよ。君も寝てないんだろう?」


「ええ、まぁ……」


「最近は勇者がムダに張り切ってモンスターを倒そうとするから

 僕らモンスター開業医はとても手が回らないね」


「先生から勇者にかけあってもらうことはできないんですか?」


「ムリだ。彼らは魔王を倒すことが全人類の悲願だと思っている。

 逆にそれを邪魔するような人間は魔王の手先だと思われるだけさ」


「でもこのままじゃ……私たちが過労死してしまいますよ」


看護師の目にはメイクでも隠し切れないクマがくっきりと残る。

栄養ドリンクなどで無理やり保っているだけですでに限界。


それは自分自身にも言えることだった。


「そうだよなぁ……」


勇者を倒すことはできない。

勇者にモンスター討伐を止めさせることもできない。


いったいどうすれば……。


「そうだ。魔王をさっさと倒してしまえばいい」


「先生、何言っているんですか!?

 勇者でも簡単には倒せないから魔王がまだいるんですよ!?」


看護師のいうことはもっともで魔王は強い。

勇者がレベル上げにやっきになってモンスターを傷つける必要があるほど強い。


「先生はまだレベルぜんぜん低いですし、

 今から勇者と同じようにレベルあげてもかないっこありません。

 それこそ勇者の倍以上にレベルあげて強くならないと!」


「そうだよなぁ」


「勇者でこれだけ手間取っているんです。

 魔王を倒せば、勇者の目的がなくなってケガするモンスターは減りますが

 簡単に倒せる相手じゃないですよ」


看護師はぴしゃりと告げた。






数日後、魔王が医者によって討伐された噂はまたたく間に大陸へ広まった。


勇者は冒険する理由を失って武器を捨てて、

実家に戻り過去の栄光をネットで書き込むだけのニート生活になった。


世界は誰も傷つけあわない優しい世界へと変わった。


「って、そんなことより先生!! 本当に先生が魔王を倒したんですか!?」


看護師は勇者より先に英雄になった医者へ詰め寄った。


「ああそうだよ。戦闘スキルはないからとにかくレベル上げまくって物理で殴って倒した」


「いやいやいや!? 先生どうやってレベルあげたんですか!?

 モンスターを倒す時間も武器もなかったじゃないですか!?」


「あぁ、それなら簡単さ」




医者はここ病院を訪れるモンスターの患者リストを出した。



「だって、この病院には瀕死寸前のモンスターが舞い込んでくるじゃないか」

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