社会の魚

元村尋

第1話

「ほら、鯛!ついさっき釣れたんだ!」


「オスかね?」


「あぁ!こりゃ白子もあるぞ!」


今年の夏、僕は母の実家にいた。

祖父は現役の漁師、祖母は料理がうまい。


「ちょっと早いけど昼ご飯鯛たべるかね?」


「うん」


祖母は手際よく台所で鯛をさばく


鱗を取って、内臓を取って、頭も落として、3枚におろされる。

内臓も綺麗に洗われて、アラと一緒に味噌汁のダシにされる。


「魚はいいよなぁ、捨てるとこが無いから」


祖父は魚の事を話し出す。

アラ汁がうまいんだとか、ありゃ頭も食べられるんだとか。


聞いてるうちに思った


僕は魚じゃないか


入社した会社はブラックとも言えないグレー企業、今回盆休みが取れただけで奇跡だ


僕の頭も体もきっと利用されて使えるだけ使われて、きっとすべて搾り取られるんだろうな


今さばかれている鯛の様に、余すところ無く搾り取られるんだろうな



運ばれてきた鯛のお頭と目が合った


その目はもう死んでいた、まるで僕のように


さっきまで海を泳いでいたのに

僕だって学生時代は自由だったさ


キラキラしていたのに

僕も夢を追いかけていたのに



祖母は味付けが濃い、味噌汁は鯛の風味より味噌の風味が強い気がした


じきに僕も、僕の持ち味も、社会に染まるのかな



料理された鯛を僕は食べた

まるで数年後の僕を食らう様だ

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