第4話 新兵

僕は山谷浩二、新しく人類を守るためにこの基地−−−日本自衛隊第十六基地に配属された、第三世代型アバランチのパイロットだ。


同期には情報管制を得意とする朝宮日菜子と、マークスマンの黒木真也がいる。


人類を守るために僕は沢山勉強したし、訓練だって人一倍頑張った。


僕には肉親がいない、どうやらアルザスの襲来の時に亡くなったらしい。


それは僕が生まれてまだ病院にいるときの話だ。


アルザスの出現場所はフランスだったと聞いている、そこでアルザスはVOIDより現れ、フランスの北部を蹂躙した。


これに対し、フランスは核攻撃を敢行。


アルザスは一時的に活動を停止、しかし核攻撃のちょうど三十分後、彼らは出現時と同じくVOIDを利用してジャンプを行なった。


出現場所はオーストラリア北部、各国の首脳は核攻撃を認可するも、アルザスに対する核攻撃の効果は最早微々たるものとなっていた。


戦車はその機動性の遅さから容易に乗っ取られ、航空機は硬質化した肉を射出して叩き落とす。


それを突破する為に装甲を増した航空機はもはや対地攻撃、対空攻撃共に能力が大幅に低下、もはや既存の兵器を利用しては、人類は滅びてしまう。


そこに現れたのが僕らが駆るアルザスってわけだ。


『山谷くん、あの……大丈夫でしょうか……』


カプセルに入り、システムを起動していると朝宮さんが話しかけてくる。


『大丈夫や朝宮、ワイらに倒せん敵はおらんて、訓練でも連携は最高評価、それにアバランチを使ってて死ぬことはありえへんって』


「真也、そんなことよりシステムを起動……もうしてんのか、はやいな」


そう言いながら、頸椎に増設したコネクタにコードを接続する。


『あれ?そんな山谷くんはまだ機体の起動シーケンスやな、はよせーな』


うるさい、と言いながら機体の起動を確認する。


「メインカメラ、正常稼働、ニューラルリンク接続、システムオールグリーン、第三世代アバランチ、起動」



二つの視界が映る。


肉体の目の前にある、ポッドの中に展開された作戦要項、およびフィールドデータ。


そして機体の前方に広がる、雄大な自然。


『これが……外の世界か』


電磁隔壁に隔離された世界の外は、人がいないことで自然が発達しているか、あるいはアルザスの楽園かのどちらからしい。


眼前に広がる緑から顔を背け、輸送機の進行方向とは真逆へと視線を向ける。


そこにはコンクリートと、常時展開されている電磁障壁で埋め尽くされていた。


人類の殆どはこの電磁障壁で囲まれた軍営都市で生活している。


さて、と視線を元に戻す。


輸送機は元々の航空機に装甲を何枚も貼り付けたものだ、移動速度はかなり遅い。


そんな低速で、下半身を吊り下げられるような形で空を飛ぶ感覚は、たとえ生の肉体で無かろうと相当な恐怖を覚えさせる。


二体づつを向かい合わせに配置し、最大6機までを搭載できるこの輸送機は、第三世代アバランチ開発と同時に、これを輸送するために作られた新鋭機だ。


自分の脳内データと基地のデータを照らし合わせ、確かに間違いがないことを確認する。


『山谷、そろそろやで』


わかった、と黒木に答える。


黒木のアバランチは既にスナイパーライフルを肩部ハンガーに武器を取り付けている。


自分も、自動小銃へと手を伸ばし、弾薬の装填を行う。


「朝宮さんは大丈夫?」


と問いかければ、はい、と落ち着いた声がする。


朝宮さんは機体とのニューラルリンクを接続するとどこか落ち着いた性格になる、これは原因不明らしく、本人は気分の問題です、とよく言っているのだけれど、あんなにドジっ子で慌てん坊の朝宮さんがこんなにも変わるなんて、気分の問題ではないと思う。


雑念を振り払い、意識を切り替える。


「これより第三世代アルザス試験分隊アルファ、ミッションを開始する!」


『こちらアルバー、パージする』


その通信と共に機体のロックが外れる。


輸送機から遠ざかり、真下には降下エリア用に設定された更地が見える。


アルザスの反応は検知されていない。


迫り来る大地を目に、少し恐怖感を覚えるも、高度が一定を切った瞬間、両腕を大地へと向け、降下用ブラストシールドを起動する。


一瞬の視界の歪みと共に、眼前に濁ったシールドが展開される。


さらに大地は近づいてきて、それに比例するように心臓は縮み上がる。


そして、接触する。


ブラストシールドが解除され、機体は何事もないかのように立ち上がる。


『……ふぃー、これはなんべんやっても慣れんなぁ』


アバランチをまるで背伸びするように動かしながら、黒木は言う。


そんなつぶやきに、僕はそうだなぁと返す。


しかし、そんな二人の会話を遮るかのように、深緑色のアバランチを操る朝宮さんが言う。


『雑談などせず行きますよ、二人とも』


ついカプセルの中で顔をしかめる、彼女には悪気がないのだ、ならば強く言えないし、自分は男だから、怖かったんです、なんて大きな声では言えない。


『ああ、それとあなたの心拍数が上がっていた、即ち恐怖感を持っていたのはデータリンクで把握してますよ、ちなみに黒木君は落ち着いていて全く動じていませんでした』



……そっか。


黒木、お前は気を遣ってくれていたんだな。


いい奴だなぁ、お前。


一人の気を遣えないやつのせいで、たった今ボロボロになってしまったけれど。


何がボロボロかって?


『……まあ減りゃせんやろ』


「俺の、心だよ!!」


俺の声はカプセルの中に響き渡った。

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