第20話ホワイトドラゴンは、死線を彷徨う

 さて、方針は決まりました。


 流石にこの小さなサイズで飛んで行くのは、時間んも労力もバカになら無いです。で、ホワイトドラゴンさんには、人の住む所に直接転移させてもらいます。


 では、いってらっしゃ~い。


 くまさんの娘さんを見付けたら、念話を下さい。直ぐに、空間結界で繋ぎます。




   <ホワイトドラゴンの視点>



 ぽんっ ☆


 いきなり転移されて、人混みの中。うっかり人間に踏まれそうになった。


 カムイは、「彼女なら大丈夫」と言っていたが、この状況から言ってやはり自己中心である人間だと実感する。


 人とは、誠に勝手な生き物だ。


 しかし、このまま不満や怒りを彼女にぶつけても、良いことは1つもないだろう。


 くまさんの娘さんは、私もよく知っている。何と言っても、私はくまさんたちの村で、小さくなるための魔法を教える先生をしている最中だ。


 もちろん、娘さんも私の教え子である。


 ちょっと好奇心の強い、お転婆な娘さんだ。8才という年は、そろそろ良い相手を見つけて、結婚について考えるものだが、彼女の場合、冒険に憧れていて、外の世界に興味をもっていた。


 回りが、頭ごなしに反対していたのも、反発心を育ててしまったのだろう。


 ある意味今回の件は、起こるべくして起こったものであった。


 探すにしても、この人の町というのはとてつもなく広い。


 闇雲に捜しても見つからないだろう。


 ここは、なんでも良いから情報が知りたい。


 情報と言えば、冒険者が居る所が適しているだろう。


 冒険者と言えば、ギルドか居酒屋か。


 まずその場所を探すとしよう。


 方針が決まれば、実行するのみ。


 鎧や剣等を冒険者は装備しているから、それを装備している者を探そう。


 早速、それらしい者がいないか、回りを見渡す。


 きょろきょろ きょろきょろ


 うんっ? 見つけた!


 如何にもな、がたいの良い男性5人。剣をぶら下げている者、弓を背負っている者、大きな盾をもっている者、ローブに杖の者、そして多分懐に短剣を忍ばせている?者。


 冒険者のチームとして、バランスの取れた者たちといえるだろう。そして、こうして見る限り、かなりの強者だろう。


 彼らに着いて行けば、予定通り冒険者ギルドに辿りつくだろう。


 こっそり、気付かれないように着いていく。


 ぶーーーーん  ぶーーーーん


 紛らわしいけど、ハエとか蚊とかではない。


 これは、私が飛んでいる音。でも、小さいから音もそんなにするとも思えない。特に人間に気付かれる程ではないと思う。


 多分懐に短剣を忍ばせている者が足を止めた。


 「どうした?」


 「いや、気のせいか」


 5人は又歩き始めたが、直ぐに足を止める。


 「何か着いて来ているようだ」


 「何!?」


 ばっ!と、5人がそれぞれ警戒して辺りを伺う。


 やばい! ばれた?


 ひやりと、冷たい汗が流れる。しかし、虫のサイズの私に気付くことはないだろう。息を止めてじっとすること、どのぐらいだろう。


 右の横1センチのところを、ばびゅーーーん、と剣が振られて通り過ぎる。


 私の心臓が一瞬止まる。


 「怪しい気配を感じた所を剣で切りつけてみたが、気のせいか?」


 「ステルスとか隠匿のギフトか」


 「ああ。だが、可笑しな気配はまだ消えてないな」


 「まあ、悪意や殺意は感じないか」


 「ふむ。どうせ行くところは冒険者ギルドだから、このまま様子をみるか」


 男たちは首を軽く振ると歩き始めたが、私はそれどころではなかった。1歩間違えば死ぬほどの大ケガをするところだったのだ。


 流石にこの状態で着いていくことは出来なかった。


 漏らさなくて本当によかったが、腰が抜けて直ぐに飛べそうにない。


 地べたに、ペタんとしゃがみこんでいると、別の者に踏まれそうになる。


 兎に角、人通りの無いところに移動しないと、このままでは危ない。


 引き受けた時は、もっと簡単に見つけらられると思っていたが、その考えが甘かったことを後悔した。


 この人の住む町は、実に危険に満ち溢れていて、並みたいていの冒険どころではなかった。                                     

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