偶然が運命とは限らない

らむね水

出会う



出会いは春、入学式。

俺が入学したのは、馬鹿でかい私立の金持ち高校。だから、迷子になるなんて当たり前で。

体育館に行きたかった俺が迷い込んだのは、敷地内にある温室の薔薇園。

扉を開けた瞬間、ブワっと薔薇の香りがする風が、俺の身体中を包み込んだ。

目の前に広がる、色とりどりの薔薇。

そして、その先で微笑んでいたのが。

『きみ、新入生?』

薔薇の花が霞むくらいに美しい、貴方だった。


映画の見過ぎだよ、なんて呆れてしまいそうなシチュエーション。

だけど、そのテンプレートのようなシチュエーションに怖いくらいに溶け込んでいた貴方。

甘美な薔薇の香りに埋もれている貴方を、ただ単純に綺麗だと思った。

理由なんて、別にそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。

それだけだけど、名前も学年もわからない、ただただ美しい貴方に近づいてみたくなった。




「…で?今に至ると?」

「うっ…。」

時は過ぎて、夏休み直前。昼休みの教室。

さすが金持ち高校なだけあって、空調が効いていて夏でも涼しい。

目の前でパックジュースのストローを振り回しているのは、幼馴染の詩遊しゆう

可愛らしい容姿と明晰な頭脳、抜群の運動神経を持つ男、詩遊はこの高校の附属中学出身。

中学では生徒会に入っていたらしく、先輩達からはとてつもなく可愛がられている。

「せっかく?この僕が直々に調べてあげたのに?なんの進展もなし?ふざけんのもほどほどにしてくんない?」

「ごもっともです…。」

そんな詩遊だから、あの、薔薇園にいた先輩の情報を得ることなんてお手の物で。

入学式の1週間後にはプロフィールを書いたメモを手渡され、更にその3日後には先輩と対面させられた。

天馬てんまつづみ先輩。あだ名は、つづ先輩。3年の学年主席。ミスコン連覇するもすべて辞退。器楽部の幽霊部員で、ピアノが得意…)

初めて面と向かって話したときのことは、今でもしっかり覚えてる。

対面した場所は、あの薔薇園。

あそこは、天馬先輩のサボりスポットだったらしい。

薔薇に埋もれる、ロングの茶髪。

改めて見ても、やっぱり綺麗な人で。

高くて柔らかな声も、すごく魅力的で。

知れば知るほど、ハマっていく人。




「あ、つづちゃんだ。」

「えっ!どこどこ!?」

詩遊の声に、とっさに窓に飛びつく。

窓から見える渡り廊下からこちらへ手を振る、美しい人。

「…今日も、綺麗だなぁ…。」

天馬先輩に見惚れていたから、俺は知らなかった。

「つづちゃんの何がいいのか…。」

なんて言ってる詩遊のスマホ画面の履歴に、




【つづちゃん:次、幼馴染くんの移動教室どこ?】

【しゆう:美術室。僕も一緒。】





なんてやり取りがあったことも、

美しい先輩とのテンプレートのような出会いが、全て仕組まれていたということも。

俺が全てを知るのは、もうちょっとだけ、先の話。








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偶然が運命とは限らない らむね水 @ramune_sui97

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