2つの泥棒のお話
光野朝風
津波と泥棒
とある海岸沿いの町に、一人の泥棒がいました。
泥棒はよく町に出て、商店で果物や品物を盗んだり、人のお金を取ったりしていました。
悪いことばかりする泥棒は人々から嫌われていました。
ですから、人目のつくところを歩けません。
誰かの目に留まると、「見ろ!泥棒がいたぞ!捕まえろ!」とみんなが泥棒を捕まえにくるからです。
泥棒はいつも人々の目を盗んでは悪いことをして、盗んだお金を他の町で使って遊んだりして自分だけいい思いをしていました。
町の人が困ろうと、悲しもうと、自分が楽しかったので気になりませんでした。
そんなある日、泥棒が丘の上で太陽の光を浴びながら寝転んでいました。
ふと海に目をやると、泥棒は異変に気がつきました。
なんと、水平線の方に大きな波が見えるのです。
泥棒は驚いて、思わず町に出て叫びました。
「大変だ!大きな津波が来るぞ!!みんな逃げろ!!」
みんな、泥棒が昼間にどうどうと現れたことをよく思いませんでした。
みんな、泥棒の言うことを疑います。
「どうせ、そうやってだましてお前はまた悪さをするのだろう」
みんな口々にそう言います。
それどころか、誰かが警察官を呼んできました。
警察官は悪い泥棒を捕まえようとします。
泥棒は必死に訴えます。
「本当だ!遠くの海から大きな津波が来るぞ!みんなあれに飲み込まれちまう!」
それを聞いた警察官は言いました。
「お前の言うことは信じられん。人にものを言う前に人に信用される行いをすることだな」
そう言って泥棒をお縄にかけようとしましたが、泥棒は津波に飲み込まれたくないのでいちもくさんに逃げました。
丘の上まで一人で逃げてきた泥棒は大きな津波が町を飲み込んでぐちゃぐちゃにしていく様子をじっと眺めているしかありませんでした。
「だから俺の言ったとおりだったろ。俺のことを信用しないからあんなバカな目にあったんだ」
警官と泥棒のやりとりがあったしばらくあと、高台にいた住民は津波を見つけ、町の人々へ逃げるように伝えました。
多くの住民が波に飲み込まれました。
助かった町の人々は高台まで逃げてきました。
丘の上にいた泥棒を助かった警官が見つけ、泥棒を見るなりいいました。
「どうしてお前が一番先に見つけたのだ」
さらに警官は言いました。
「お前が牧師だったらみんな信じてこんなにも多くの人が死なずにすんだのに。お前の信用のなさがこれほどの死者を生んだのだ」
泥棒は警官の言葉を聞いてとても悲しくなりました。
確かに自分は人の物を盗む罪を犯し、人々に迷惑をかけ続けたけれど、一体どこに津波を知らせることへの罪があるというのだろう。
町が津波によってめちゃくちゃにされ、泥棒は町で盗むものもなくなり、自分の好き勝手に暮らせなくなってしまいました。
食料もお金もない泥棒はどうしようもなくなって、町の人の避難所へとふらふらと行きました。
避難所では町の人々が協力し合って必死になって暮らしていました。
そこへ突然泥棒が現れて、みんな驚き、鋭い眼でにらみつけます。
避難所へ行っても泥棒は怪しまれ、誰も泥棒に助けの手を出そうともしませんでした。
「あいつは盗みをするから大事なものを見せちゃいけないよ」
「何をしでかすかわからない悪いあいつを早く追っ払おう」
周りからは泥棒を疑い、嫌い、追い出そうとする声しか聞こえてきませんでした。
避難所の人々は食べ物や生活の品々をお互いにやり取りしていますが泥棒のところへは一切回ってきません。
泥棒は次第に孤独になり、町の人に怒りと恨みを抱くようになりました。
(そもそも俺の言うことをちゃんと聞いていれば、もう少し逃げる準備ができたのに、せっかくの大事な情報さえも疑いやがって)
人々に無視し続けられる泥棒はだんだんと飢え、身なりもボロボロになってきてついに盗みを働きました。
人々は口々に泥棒を罵ります。
「それみろ!やつは盗んだぞ!だから信用できないと言ったんだ!」
「だから最初から追い出せと言ったんだ!泥棒はどこまでいっても泥棒だ!」
泥棒は追放され、行く当てもなく、ついに一人で食料もなく飢え死にしてしまいました。
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