エピローグ

 数日後、幸男が退院すると言うので三人で木下家の近くまで来た。

 タクシーが到着し、幸男が「愛しの我が家ー」と叫んでいる。

 それを角に隠れて見ながら、

「行かなくていいの?」

「……いや、いいや。あの家に幸男は二人もいらない。もうそっとしておいてあげよう。オレも美月の家に戻るよ」

 あ、そうそうと言ってポケットからお菓子の缶のような物を取り出す。

「これ、お礼。随分世話になったしな」

 という美月は少し寂しそうだ。

「……そうだ、いつか警察官にやったアレで美月の記憶も戻らないかな」

 そんなうまくいくのかな?


 空湖は黙って例のカメラ型のストロボを取り出し、スライドさせて開く。

 僕は思わず顔を背けて目を閉じる。

 ボシュッ! っとフラッシュの音がすると、美月がもんどりうつ。

「ぐわああ~、目があ~」

 そりゃそうでしょ。

 ひとしきりのたうち回ってから、置き上がった美月はくらくらする頭をはっきりさせるように振る。

「いたたた」

 ん? 声の調子が変わっている。声自体は同じだが発声と言うか、声の出し方が違う。年相応の、女の子の声だ。

「あれ? ここどこ? 何? なんで私こんなとこにいるの?」

 戻ったの?

 携帯を開いて日付を見ては驚き、と一通りリアクションした後、慌てふためきながら走って行く美月を茫然と見送った。

「ふふ、大した演技力ね」

「そうなのかなあ。まあそう考える方が自然なんだけど」

「私達も帰りましょうか」

 と言って踵を返した所で木下家から叫び声が聞こえた。


「オレのヘソクリがないー!!!」


 美月に手渡された缶を見る。

「……いいのかな?」

「いいんじゃない? 本人がくれたんだし」

「演技なんじゃなかったの?」

「いいからいいから。コウ君だって結構出費したでしょ」

「そうだね。美月さん、随分お金持ってると思ったら……。そう言えば、二階堂さんも意識を取り戻したって」

 正確には面会が出来るくらいにまで回復したという事だ。結構重い怪我だったみたいだが、元気になってよかった。

「そうなんだ。お見舞いに行ってあげましょう。猫の事も知らせてあげないとね」

 きっと心配しているだろう。


 僕達は並んで歩き出す。

 その背中を夕日が見送った。

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