第2話 聞こえないはずの声が聞こえる

上条かみじょうさん……」


「ん……あ、はい……ごめんなさい……うたたねしていまして……」


 ……またか、寝ぼけているのだと思っていた。しかし、こうまで続くと、精神を病んでいるのか、本当に霊の声が聞こえるのか、どちらかを受け入れざるを得ない……。午前中の作業を終えて、昼食をとった後、シロツメクサの絨毯で気持ちよく昼寝をしていたのだが、何者かが安眠を妨げる。


 友人からは鈍感な奴だと言われることが多い。夢中になれば一心不乱に発掘調査に没頭できる、長所だと思っているのだが、例えば恋愛に関しては、全くもって勘が働かない。モテる方だと言われるが、モテると感じたことはない。鈍感で気が付かないのか、本当にモテないかのどちらかだ。

 ただ、発掘作業員の皆からは評判が良いと自負している。これまで地道に培ってきた実績と、長い長い穴掘りの時間は裏切らないということだ。努力すれば必ず報われるとは言わないが、それ相応の何かは得られる。


 そう、私がを聞けるようになってしまったのもその一つだろう。


 聞きたいと願ったことはない。幽霊何てまっぴらごめんだ。しかし、最近になって果たしてそうだろうかと思うようになった。考古学とは過去の軌跡を発見して、仮説を立てて、証拠を探して立証することだ。これが、死者の声を聞こうとすることと、何ら違いはないのではないかと思えるようになった。

 声にならない死者の声……声にはならないと思っていたが、案外、聞こうと思えば――知りたいと切に願えば聞こえてくるようになるのではないかと。







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