第4話 家のついての小話
肉人形という話があった。
ゲゲゲの鬼太郎のPSゲームの中に収録されたもので、その話の中で
主人公が歩くとき、
ぎし.......ぎし.......と床がきしむ音がした。
プレイヤーはその音を聞きながらプレイするのだが、
私と兄はその音に聞き覚えがあった。
住んでいる家で、よく聞く音だった。
ー家についての小話ー
そのゲームの中で使われる唄を、兄は好み、私を怖がらせたい時に唄った。
兄はホラーゲームが好きで、古いテレビを部屋に持ち込み、一日中プレイしていた。
私はそれを兄の後ろから見るのが好きだった。
借りた家は古く、とても大きかった。
庭も広く、気持ちの悪い無花果の木と、空気の淀んだ離れと、臭い井戸があった。
家の1階には板間の2部屋と、和室と納戸があり、L字型のリビングダイニング、台所、お風呂、トイレが2個、また、大きな書棚を置くスペースがあり、
2階はきれいな洋風なフローリングの部屋が2部屋とトイレが1つあった。
家の長い廊下には板が引いてあり、その上に臙脂色の肌さわりの悪い絨毯が敷いてあった。
その廊下を歩くと、下の板がきしむ音がした。
台所の隣には勝手口に出れる小さなスペースがあり、そこから外に出れたが、湿気がすごく、
家を出ていく半年前に床が抜けた。
穴からは虫が這いあがり、さらに、
冷蔵庫をそのスペースに置いていたので、冷蔵庫を使う度に開脚を余儀なくされた。
踏ん張っている足に、這い出してきた虫がまとわりつく。
最悪だ。
お風呂はバランス釜で、暖かいお湯を使うためには、
ガス栓をカンカンカンと3度回さなければいけななかった。
ガス栓はお風呂の床より下にあり、回すためには、お風呂の床とバランス釜の隙間に手を突っ込まなければいけなかった。
隙間の床下には、小さな百足や、ナメクジが多くいた。
栓を回すときに、床と手が触れそうになる、その時に百足と接触したらもうおしまいだ。
百足によるかぶれと、焦って手を抜こうものなら熱い釜の側面に触ってしまい、やけどにも苦しむこととなる。
虫ネタが多くて申し訳ない。
虫は、実害というか目に見える怖さだった。
だが、この家には目に見えない怖さもあった。
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[軋む床]
夜、私は母とともに、和室で式布団を敷いて寝た。
和室はふすまでリビングと廊下を仕切っていた。
壁は土壁で、指で触るとぽろぽろと土がとれた。
母は仕事で疲れ、すぐ寝てしまった、私はなかなか寝付けずにいた。
ぎし.......ぎし.......と音がした。
兄だろうか?
1階には2つトイレがあり、玄関そばと台所の先のお風呂のそばにもう1つあった。
2つのトイレは廊下でつながっていた。
いつもはお風呂のほうのトイレを使うのに、珍しく玄関のほうのトイレを使うのだろうか。
玄関のそばのトイレは、和式と、男性用の壁掛けがあった。
来客用だったのだろうか、トイレにしては広いスペースだった。
そっちにいくのだろう。
わざわざふすまをあけて話しかけるのも面倒くさい。
私はただ歩く音を聞いていた。
おかしい。
ドアを開ける音がしない。
トイレのドアは古く、開けるとギイと音がした。
玄関と和室は近かったので、そこを開けると音が聞こえるはずだ。
足音が戻ってきて、和室のそばを通り過ぎていった。
あっとのトイレにいくことにしたのか。
ぎし.......ぎし.......
足音が戻ってきた。
何をやっているんだろう、廊下を行ったり来たりしている。
寝ぼけてるのか?
......兄はこんなに歩くのが遅かっただろうか。
ゆっくり歩幅を狭く歩いている気がする。
ぎし.......ぎし.......ぎし.......ぎし.......
一歩ずつ何かを確かめるように歩いている。
ぎし.......ぎし.......ぎし.......ぎし.......
近づいて、遠ざかり、また近づく音、
その音を聞いているうちに眠くなってしまった。
寝付けない時、私はよくこの音を聞いた。
[影]
違う日の夜、夏休みだった。
昼間心置きなくいっぱい寝た私は、案の定寝付けなかった。
母はいつも通り、仕事でつかれ背中を私側に向けぐったりと寝ている。
兄は友人宅に泊まりに行っていた。
ぼーっと月明かりに照らされる母の影を見ていた。
母の影が大きな気がした。
ゆっくりと母の影が動き出した、揺れているように感じた。
扇風機で、肌掛け布団が揺れている。
大きく、母の影が動いた。
母が、寝返りをうった。
母の影から手のようなものが伸びた。
お母さん起きてる?
影ではなく、母を見た。
私に背を向け、ぐったりとしている、起きている様子はない。
影から、毛のない頭のようなものも生えてきた。
その影は山のような形をしていて、
てっぺんに頭、途中に手のようなものがある。
着物を着た噺家が座っているように見えた。
影はとどまることなく、ずっと揺らめき続けている。
揺れながら、何かを話しているようにも思えた。
伸びたり、縮んだり、形を一定に保つことない。
影はもう、母の影より完全に大きくなっていた。
黄土色の土壁一面に影がうごめいていた、
ふと、気付く。
そもそも今日は扇風機を回していない、
母が寝返りを打ったなら顔はこっちを向いているはずだ。
私は母を起こすことにした。
「お母さん」「お母さん」
母は唸った。
「ううん....何?」
迷惑そうだ。母の影は普通の影になっていた。
「何でもない」
「やめてよ、もう」
私は、母に背を向け、今度は眠ることにした。
[青い老人]
この家はテレビがつかなかった。
テレビは持っていたし、アンテナもついていたが、
電波がおかしく、テレビをつけても砂嵐しか映らなかった。
兄も私も、テレビの話は分からなかった。
だが、ゲームと映画の話には強かった。
日中は兄がテレビを使ってゲームをしていた。
夕飯は近所のビデオ屋で借りた映画を見て、そのまま寝るまで映画がついている。
ただ、私は普段は祖父母の家で夕飯を食べ、母は買ってきたお惣菜を食べ、
兄は母の作り置きの夕飯を食べる。
映画は母が休みの日の贅沢だったが、それでも人より何倍も映画を見ていたと思う。
あまり、記憶に残っていないのが残念だが、
「ジャイアントピーチ」などは、今でも覚えている。
その日も夕飯を3人で食べ、映画を見ていた。
その日の映画は内容が難しいように感じた。
私は夕飯が終わり、母と兄より先にお風呂と歯磨きを済ませた。
リビングに戻ると、まだ2人が映画を見ていた。
夕飯が終わると、特に用事がなければ、映画を楽しむために私たちは部屋の電気を消す。
この時も部屋はすでに暗かった。
二人は映画に夢中のようだったので、リビングの隣にある和室に布団を引き、
寝ながらテレビ画面が見えるようにふすまを開けた。
しばらく映画を見ていたが、どうにも内容が分からない。
つまらなく感じた。
ふと、リビングにおいてある、ドレッサーの鏡が光った気がした。
テレビ画面の光を反射したのだろうか。
そちらに目をやると、鏡に、きちんとした男性用の着物をきちんと着こなした
老人が映っていた。
その老人はしっかりと前を見、すぅっと鏡から出てきた。
その姿は淡く発光し、青白く、色は感じなかったが、着物の輪郭などしっかりしていた。
顔ははっきりとせず、老人であることしかわからなかった。
老人はこちらをちらりとも見ず、すーっと並行移動をするように、
浮きながら、台所のほうに消えていった。
私は驚き、すぐに母と兄に伝えたが、二人は信じてくれなかった。
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玄関すぐ横の板間と、離れには大家の荷物がそのまま残っていた。
この家は不動産を通さず、借りた家で父が大家と直接、交渉をしていた。
その際に、大家が家族全員と会いたいと伝えてきた。
家族で会いに行くこととなり、その時に通されたのが、玄関横の板間だった。
その部屋は古い骨とう品が多く並び、書物も多かった、
部屋の中央にはガラスのテーブルとテーブルをはさみソファが向かい合うように置かれていた。
大家は品の良い、しっかりとした老婦人だった。
ソファに座ると、飾られた骨とう品や古びた書物に囲まれ圧迫感があった。
中でも、ガラスケースに入ったフランス人形が後ろから私たちを見ている気がした。
話の内容は覚えていないが、老婦人は突然私に話しかけてきた。
「その人形、こわい?」
私が気にする素振りでも見せていたのだろうか。
突然話しかけられた私は、おどおどと首を振った。
「それ、主人のものなの」
母が老婦人にご主人は?と聞いた。
「去年、亡くなったの」
「この家にあるものはみな、主人の物。
動かせないから、ここの部屋と離れに荷物は置かせてもらいます。」
「それでも良ければ住んでいいわ」
母はあまりいい顔をしなかったが、父は喜び、ここに住むこととなった。
老婦人と別れたあと、電話で住むための条件が一つ足された。
私を離れと玄関そばの板間に絶対に入れないこと。
なぜかは分からない。
母は私が悪さをすると思われたんだと言った。
大家の主人はあのかわいらしい人形を何故、持っていたのだろう。
大家が置いて行った物の中に、本棚があった。
その本棚の中には本が入ったままになっており、老婦人はその本をすべて、私にくれた。
どれも古く埃まみれだったが、小さな女の子向けの本が多かった。
あの家では様々な不可解な体験をしたが、老人の姿を見たのは、私だけだった。
何より、言われなくても私は離れと玄関そばの板間に入りたいは一度も思わなかった。
棲む人々のお話 @ten-0610
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