オレゴンキューブ
にぽっくめいきんぐ
プロローグ オレゴン州、降臨
『我を呼び出したのは、お前達か。さぁ、願いを言え。どんな願いもかなえてやろう……ただし、我、すなわち、オレゴン州に可能な範囲内で』
低い声だった。
オイラたちが見上げた暗い空。雷光。
空に浮かび、横たわる、巨大な「ソレ」が告げた。
『さあ、早く、願いを言え。オレゴン州に叶えられる範囲で』
風に吹き曝される海辺の岸。
ゴツゴツとした、氷河に侵食された火山。
滝。
深い森。
砂漠。
幹線道路、民家の灯、ビル群。
そんな諸々が、オイラの頭上に浮かんでいた。
「あれが、オレゴン州……」
オイラは空を見上げ、息をのんだ。
「そうよ、
お下げ髪の少女、スカーチョも、頭上に浮かぶソレを見上げながら、オイラに教えてくれた。
空に横たわる、巨大な大陸だった。
「とんでもないモノが、呼び出されたんだな……オレゴンキューブによって」
オイラは呻いた。
オイラの筋肉でなんとかできる範囲を、はるかに超えた怪異が、天空にあった。
「中くん! 早くしないと、奴等が!」
「スカーチョ、そうだった!」
奴らに世界征服などされては大変だ。先に願いを言わないと!
「おーい、オレゴン州ー!」
上空に向かって、声を張り上げる。
『なんだ?』
低いバリトンボイスが、空から降ってくる。
「オイラ達の願いは……」
しかし。
オイラの言葉をかき消すように、鼻声が響いた。遠くの、岩の後ろあたりから。
「パンツ! パンツをくれ! 少女用のをだ!」
しまった!
『パンツか。わかった。容易い願いだ』
「やられた!」
スカーチョが悔しがった。しかしもう遅い……。
『オレゴン州の下着メーカーよ。ちょっとずつ、オラにパンツを分けてくれ』
バリトンボイスが降り注ぐ。
そして……。
ひらひら。
ひらひら。
夜を彩る白い雪のような三角形が、揺れながら舞い降りた。
「これ、パンツよ……たくさんの……」
スカーチョが、1枚の白布をつかんで呻いた。
『願いは叶えた。では、さらばだ』
オレゴン州は、空中で巨大な地響きを立てながら二つに割れ、一方は東の方へ、もう一方は西の方へと、飛び去っていった。
「きっと、アメリカ大陸にむかったのよ。東西に別れて……」
スカーチョは残念そうに言った。
オレゴン州の消えた上空には、明るい晴れ間が戻った。
「くっそー! 卯論め!」
オイラは走った。
卯論は、逃げずに岩場に座っていた。
「こんなにパンツをもらえて満足か! 卯論!」
オイラは聞いた。しかし卯論は、少し落ち込んだような表情で、岩に腰かけたまま、力なく答えた。
「これじゃ、ダメなんだよ。だってこのパンツ、未使用品じゃないか。少女がはいてこそ、パンツには魂が宿るっていうのに……」
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