パート紹介は回想とともに

某チャリ野郎

序章

0. 個人の思い、全体のきっかけ

 入試で学校内立ち入り禁止。

 多くの人が、高校生以降に経験するだろう。

 市立北咲高校でもそれは例外ではなく、たとえ土砂降りでも休みにならないような野球部でさえもグラウンド・校舎ともに使えず休みになるので、休みなどほとんど経験しなかったような1年生の不満の声が上がったりする。それを2年生が生暖かい目で見守るのが、恒例行事となっていた。


 さて、ほとんどの高校3年生がセンター試験、一部の中学3年生が理数科の推薦入試を受けていたその日、吹奏楽部生は思い思いに過ごしていた。楽譜を手に取って読み込んだり、制服ばかりなタンスの色合いを増やしにいったり。

 そんな中で富士が丘駅前のショッピングモールに目を向けてみると、フードコートに普段は部活で顔を合わせる集団がいた。いつもなら混んでいるフードコートも今日は空いているので、ある程度までなら大きな声になってしまっても問題はなかった。

彼女らパートリーダーがしていたのはあみだくじで、内容は各パートの役割を決めるものだった。


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 「えー、木管とかよく分からないー」

 わざとらしく声を上げたのは、打楽器の妹尾舞姫だった。

 「それ言うならうちも、ボーンなんて…」

 C管パートの寺田結衣も不満そうだった。彼女の出身、迫川中は全国大会の常連校。他の楽器について教わってはいても、合奏で見えないパートの紹介は酷だった。


 「ラッパはまだ分かりやすいけど、そもそも金管の紹介って大丈夫なのかな」

 アルトサックスの小河原みどり。同学年生がパート内にいない事もあって金管と仲はいいけど、いざその楽器のことを分かっているのかと問われると、疑問は残るばかりだ。

 「低音か…そういえば、あんまり音を聞いたことないな」

 クラリネットの田原本綺香。バリトンサックス・バスクラリネットが低音パートに行ってからはパート練でもほとんど顔を合わさなくなっている上に、合奏でも低音独特の動きを耳で追えているのか怪しいものだ。


 「あ、ポテト空じゃん。おかわりする?」

 「するする、美味しいよねここの」

 ポッポのポテトは、複数人で分けるのにちょうどいい値段・量なので、学生のおやつに人気だという。

 木管・打楽器のテーブルが盛り上がっている間に、金管側もまた賑やかになっていた。


 「ホルンって意外と難しいよね」

 ラッパことトランペットの羽室結華。金管の音域で言うと上2つにあたるこのパートどうしは、進学する時の楽器移動で持ち替えをする人も多く、奏法は似ていると言えなくもないけど、譜面の動きはまるで別物だ。

 「意外って言うな意外って。でもクラか、アンサンブルしたことあるけど分からんね」

 ホルンは木管と同じような扱い方をされる時がある。和田山芽衣自身も、中学のときに部内のアンサンブルコンテストで木管五重奏として参加したことはあるものの、吹き方までは考えたことがなかった。


 「サックスって目立つし、かっこいい」

 トロンボーンがどの口で、と言いたいところではあるけど、伊勢原悠希は元々低音パートだったので、憧れは尽きないのだろう。小河原みどりと仲良くしてはいるけど、たまに羨ましさが限度を超えそうになる。

 「リズム系も目だt…ないけどベースはかっこいい」

 三木絵美梨は弦バスよりもベースが似合う、という自他ともに認める評判はさておき、打楽器との人間関係・演奏面での関係はしっかりしていたので、何かしらすぐ書けるだろう。さすが副部長といったところか。


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 このようにして決めたもの。それは3月の定期演奏会、パンフレットに載せる楽器紹介を他パートがそれぞれ行うというものだった。元々部長から出たこの案は、秋の選曲会を兼ねた話し合いで承認されて、これを成功させるのが、定演の部活内での大きな目標となった。

 それから入稿まで2週間余り。パートリーダー達は、前例のないこの企画に向けて動き出した。

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