弟殺し

fktack

弟殺し

誰かにおすすめの缶コーヒーの銘柄を教えられた。夢の話である。夏だったので冷えたコーヒーを飲んだ。それから少し車を走らせ一家が列になって側溝の上を歩いた。小学校高学年の娘が桶を下げている。お盆だった。水色の短いスカートにフリルがついていてそこから日焼けした脚が伸びていた。それが後ろのほうで歩行を実行している。先頭は父親だ。父親の印象はない。


数日前にブロガーのIさんが弟殺しの短編を発表し私はそれについて思うことを書いた。ほどなくしてIさんから手紙が来た。メールである。私のブログの紹介文にはメールアドレスが記載されているからそこからやってきたのである。以下本文。


「こんにちは。副園さんから自著について感想を言っていただけるとは思っていませんでした。あなたは随分と長くブログを続けているが、ここのところはとても忙しそうでなんだか手を抜いて書いているようなときもあり私も昔は熱心に読み人にもすすめたことがあったが今ではやめてしまった。しかしあなたの文章は独特で読後は心に引っかかるような残り方をする。その点の評価は今でも変わりません。


ところで今回はあなたのブログ全体の話はこれくらいにして、私の小説に対する意見に関して私の感じところを書かせてもらいます。あなたの意見を読んで私はひょっとしたら副園さんは現在弟さんとうまくいっていないのではないか、と感じました。単なる直感なので違っていたら失礼しました。違っていたらこの後は読む必要はありません。あなたは私の話の中で主人公がかつて弟を殺したことを告白する場面をとりあげ自身もかつて弟を殺しかけたことを書いています。妹にも鍋の蓋をフリスビーみたいに投げてこめかみにぶつけたが、こちらはすぐに泣いて帰ったから大したダメージではなかった。一方弟さん(他人様のご兄弟なので「さん付け」で書かせてもらいますね。これでも私は接客業なのです)はパターで頭をひっぱたいてしまいほんの数秒だが意識を失ったと書いています。しかしすぐ後であなたは「意識を失ったというのは盛った話、あるいは記憶の齟齬だ。実際はその場でへたり込んだだけだった」と訂正していますが、私はそれは嘘だと思いました。実際弟さんは意識を失ったのです。しかしそう書いてしまうと「炎上」してしまうと思ったあなたは勘違いだったことにしてしまったのです。(あなたは何年か前に実際に「炎上」し、そのことを苦々しく思っているのでした)


弟さんはお父さんの所持していたパターで頭を殴られたのでした。そんなこと、あなたに改めて語ることではないのですが、私はこの辺の描写が好きなので書かせてください。パターは確かに父親のものでしたが、その頃父親は仕事に忙しくゴルフなんてする暇はなくゴルフセットはガレージにしまわれてホコリをかぶっていました。父親は障害者の施設で働き、管理職になったばかりでした。あなたはご自身の記事で夜中になると父が勤務表とにらめっこする様子を記しています。当時はエクセルなんてなかったから、公休は「公」、早出は「早」、遅出は「遅」というゴム印を用意してそれを方眼紙に押していくスタイルでした。


副園さんのお父さんは多趣味な人でバイクも乗っていたがやがて乗らなくなりゴルフセットと同じようにガレージでホコリをかぶっていた。もっともゴルフはただの付き合いだったのかもしれない。後年、仕事が一段落すると今度はサッカーを始め、ある日の旅行で一緒に風呂に入ったときに父親の体が60を越えたそれに見えなくてあなたがびっくりしたと書いています。父親は運動もしますが食事もあなた以上に食べます。今でも都内に通勤し毎週月曜日にアジフライを食べるのだそうです。定食屋には決まった席があるそうです。それを聞いたあなたは自分が父の年齢まで生きられないのではないかと不安に思うのです。当の父親は随分と若い頃から「俺は60間では生きられない」「あと10年生きられれば御の字」と言っていて今でもたまに「70まではとても無理だ」と言って家族を笑わせるのですが、あなたは全く別の感情を抱くようになった、と書いています。


弟さんの話をするつもりが随分脱線してしまいました。しかしあながちそうとも言えないのは、要するに私はここまで弟さんの不在を語っていたことにもなるからです。なんだがそう言うと仏教の話みたいですね。(私は仏教にもとても詳しいのですが、その話は別の機会にします)

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