おんけんは!

新吉

第1話 ヤッホー

 私その音嫌い、なんとかならない?


 クチャクチャ食べるのやめろよな


 足、うるさいんだけど


 いびきがひどくて一緒に眠れないのよ


 あの人すごいおしゃべりでしょ?


 なんで黙らないのかな


 お前って、いつもイヤホンしてるよな

 なんで?




「好きな曲聴きたいからだよ」



 僕はイヤホンをかけ損ねたので答えた。僕はイヤホンが好きだ。耳にフィットしていい音が出る。オーダーメイドのいいやつ、つまりは高いやつを買った。僕の好きなバンドはあまり有名じゃない。コアなファンでできていて、ライブも異様な風景。だけど僕は彼らが好きで、ゆるされるところでは彼らの音楽を聴きながら過ごした。仕事中はもちろんだめだ、効率が上がるんたがそんな話を上司に持ちかけることもしない。そんな仕事が半分終わり食事を食べていると同僚のヨシダに質問された。当たり前だと思いながら呟くと、驚いた顔をされた。



「そう、俺てっきり最近流行ってる音嫌派なのかと思った」


「穏健派?」


「そう。あ、音に嫌いで音嫌派な。なんか悪口とか騒音が嫌だからイヤホンとかヘッドホンつけるんだって」



 ヨシダは笑いながら続ける。



「注意するでもなく、ただ黙って自分に聞こえないようにするから穏健とかけてるんだろ?お前は大丈夫だけどたまにシャカシャカうるさいやついるよな、音漏れも公害なのにさ」


「ああ、気をつける」


「いやお前は漏れてねーって!」



 立ち去ると後ろから大きな声をかけられた。音ってつけろ、なんか嫌じゃねえか。ヨシダに心の中でツッコミを入れながら、またイヤホン手に取り耳につける。音楽が流れ込む。僕はそんな陰湿な奴らとは違う。僕は音楽が好きだから聞いているのであって言うなれば音好派だ。だけどきっと周りの人はそんな風に僕を見ているのだろう。



「なんで少し寂しいんだろう」



 伝わらないのは伝えないからであって。勝手に感じとれるヒトもいれば、ハッキリ言ってくれなきゃわからないヒトもいる。言い換えれば嫌でも感じ取ってしまう鋭いヒトもいれば、気づかなくてもいいことをスルーできる鈍いヒトもいるのだ。



「少しじゃないでしょ?」



 なんとなく呟いた言葉を隣の席の彼女が聞いていて、そう声をかけられた。僕はそれからしばらくして彼女と付き合うことになる。




 〇〇〇〇〇〇




 時は20XX年、とあるイヤホンが流行する。それは音がすごくよく聞こえて、鮮明で綺麗で、自分の作業に没頭できると仕事中の使用も許可されるようになっていく。そんな些細ささいなきっかけで世界は、時代は変わっていく。今世界は音嫌派おんけんはが支配している。いや、それに反抗するものたちとの戦争が長らく続いている。音嫌派が秘密裏に開発したイヤホン。世界中に流行したそれは、次第に使用者の聴力を支配する。神経を通って脳にたどり着いた信号は彼らを戦闘兵器へと変えていく。五感を遮断させられ感覚を奪い、思考さえも操っていく。そして世界には感覚が鈍る電波が流された。人はしだいに何も感じない、何も考えない、ひととはよべないなにかに変わっていく。


 反抗勢力は国民を改造して作られた。五感を遮断されても平気な兵器を、または第六感を持つものを探して様々な実験が世界中で行われた。戦いの最中、さらに派閥は分かれていき世界大戦となっていく。

 捕手派ほしゅは、触覚の優れたもので武闘派。

 影鬼派かげきは、視力の優れたもので頭脳派。第六感を持つものも多い。

 音好派おんこうは、聴力の優れたもの、その他の能力のものがここに集まる。音嫌派の対抗組織として1番先にできた古株の派閥。

 音嫌派おんけんは、五感遮断ヘルメットをされた兵士たちを操り世界を支配している。変わった儀式をするがあるマイナーなアーティストのライブ風景と酷似している、らしい。





〇〇〇〇〇〇




「少しじゃないでしょ?私と一緒にいれば寂しくないよ。ていうか寂しいとか感じないようにしてあげるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る