男女の愛情
*
翌日。執務室に入ってきたラスベルは、驚愕の表情をヘーゼンに向けていた。
「あの子が言ったんですか!? 本当にあの子がそう言ったんですか?」
「うん」
「……っ」
ラスベルは頭を大きく抱えた。
「なんで、一生の伴侶をそんな簡単なノリで。信じられない」
「さすがの僕も驚いたよ。多少、葛藤するものかと思っていたからね」
「……
ラスベルが、負けじとガビーンをかます。この超絶サイコパスに、感情について説かれるなんて、相当ヤバい証拠だ。
一方で、ヘーゼンは神妙な表情を浮かべながら、ボソッとつぶやく。
「イルナス皇太子殿下は、悩むだろうな」
「……ヤンの婚約に反対すると?」
「聡明な方だ。天空宮殿という檻の中は、あの子には、あまりにも窮屈すぎる」
「……」
特にイルナス皇太子は、天空宮殿の生活にいい思い出がない。同じような想いを最愛の者にさせるという選択について葛藤を覚えるのは明白だということだろう。
確かに、ヤンに王妃という位は、あまりにも似つかわしくない……いや、王妃という衣を着させることによって、徐々にそうなっていくこともあり得るのか。
ラスベルにとって、それは、少し寂しいような気がした。
「あの子が王妃という身分に少しでも魅力を感じていれば、イルナス皇太子殿下に男女の愛情を持っていれば、まだ、救いはあったのだがな」
「……はい」
ラスベルは、同意しながらも、ヘーゼン=ハイムらしくないなと思う。ヤンの軽さも、もちろんあり得ないのだが、超絶珍しくこの人が常識的なことを口にしている。
イルナス皇太子と同性だから共感を覚えるのか。それとも、似たような状況に置かれたことがあるのか……
「でも、皇太子の
「可能性としては、なくはない」
「……」
「人を近くに置きたい理由は、2つある。その人に好意を持っているか、それとも、その人が憎いか」
「後者の方で、許可されると?」
「憎むことは快楽なのだよ。イルナス皇太子殿下の最愛の者を、これ以上ないくらいにズタズタにしたいはずだ」
「……」
目の前の
「王妃セナプスにとって、平民出身の
「……」
恐らくは
「どちらかと言うと、レイバース陛下の方が難色を示すかもしれないな。あの方は、僕の影響力を極端に嫌う」
「何か反撃はされないんですか?」
「今はまだ時勢が悪いな」
ヘーゼンは冷静につぶやく。
「イルナス皇太子殿下は、今は孤立無縁だ。バルマンテ皇子も抜け目のない方だから、様子を伺っているだろう」
「……そんな中だと、やはり、ヤンの存在は心強いでしょうね」
「依存させ過ぎるのは危険だよ。愛情というものはねじ曲がれば簡単にあさってな方向に向かう」
「……」
「あの子は、未だ子どもなんだ。幼少期が長すぎたせいで、男女の愛情というものを1ミリも理解せずに育ってしまった」
「……」
こう言ってはなんだが、ラスベルも密かに恋愛の経験がない。魔法使いとして、ひたすらに最強を目指した弊害か。
それとも、目の前の最強がロクでもなさ過ぎるからか。
「イルナス皇太子殿下がヤンのことを想えば想うほどに、自分の手元に置いていいのだろうかと思うはずだ。一方で、ヤンはそんなことを歯牙にもかけない。そして、それは、かなりの歪みを生み出す」
「……誰か、あの子に男女の愛情を教えてやれればいいんですけどね」
「モズ……いや、ないな」
「ある訳ないじゃないですか!?」
【4巻発売まであと3日】
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