帝国暗部(6)


           *


「という訳だから、暗部のメンバーを実験台モルモットにしていい」

「……っ」


 カク・ズは極めてドン引きした。側には、ラスベル、ロリー=タデス、ヴァージニア=ベニスもいたが、等しくドン引き。


 突然、帝国暗部の敷地に呼び出されたと思ったら、まさかの実験台モルモット提供のお知らせ。この場に彼らがいないとは言え、あまりにもな物言い。


「しかし、皇帝陛下のイルナス皇太子殿下不信はひどいな」

「……っ」


 だが、そんな彼らの動揺をよそに、ヘーゼンは他事をつぶやく。


 ロリーとヴァージニアは皇帝陛下の親衛隊だったが、窓際部署に飛ばされた。彼女たちは新人の帝国将官だ。ヘーゼンの教え子とは言え、そこまで徹底した対応を取るのは相当異例だ。


「おそらく、猛烈にすーを警戒してのものだと思いますよ」


 ラスベルが苦笑いしながら答える。


「という訳で、これから2人は定時後にここに来てくれ。窓側部署は外での時間を有効に使わないとな」

「よかったです! 最近では、定時出勤、定時退社で頭がおかしくなりそうだったんです!」


 ヴァージニアが嬉しそうに燃える。この金髪美少女は、正義感の強い熱血タイプだ。また、完全にワーカホリックである。


「……」


 父親の真実まことを見たら、殺すだろうなとラスベルは彼女を見ていつも思う。


「わ、わわわ私は『この世の春が来たんだわ』と思ってましたけど。ど、どどどどうしても、やらなきゃダメですかね?」

「ダメ」

「うっ……ううっ」


 一方で、童顔で背の低い美少女ロリーが悲しそうにうつむく。彼女の素質は一級品だが、戦闘向きではない性格と猛烈に引っ込み思案な気質がある。


「僕もなるべくなら毎日来てあげたいが、あいにく忙しい身でね」

「「「……」」」


 絶対に来て欲しくないだろーなー、と密かに思う。


 そんな中、カク・ズが小さくため息をつく。


「はぁ、ヘーゼン……いつも俺は思うんだけど、部下にはもう少し優しくした方がいいんじゃないか?」

「なんで?」

「「「「……っ」」」」


 説明しなきゃ、ダメ? と激しく思う面々。


「少尉だった頃を思い出してよ。あの時くらいのスパルタ具合が、まだ、よかったんじゃないか?」


 過去を美化する訳ではないが、あの時はヘーゼンもそれなりに慕われていた。厳しくも、無理はさせない。まさに、理想の上官であったと言えなくも……ない。


 だが。


「ああ……あの時は辛かったな」

「……っ」


 逆に!?


 懐かしいとかじゃなくて!?


「僕としては、常にギリギリの負荷をかけているつもりだ。彼らは平民で訓練もそこまで慣れてなかったからな。壊れないかどうかの塩梅が難しかった」

「……」

「たが、暗部たちは日常的に厳しい訓練を積んできた。それなりの負荷では彼らの飛躍的能力の向上は見込めない」

「……」

「破壊と再生だよ。僕は常にそれを意識している」

「……」


 淡々とそんなことを言ってのける完全アタオカ魔法使い。


「カク・ズ。君だって、彼らの10倍を超える負荷を常に課してきたからこそ、今の君があるんだ」

「そういえばそうだった!?」


 巨漢の戦士はガビーンとする。学院の頃から、当然だと思ってやってきたことが、派手なイカれ具合だと気づいた頃は、数年後のことだった。


「ロリーやヴァージニアだってそうだ。ヤンというかなりヤバいヤツの学院生活と同じような毎日を過ごしたから、今の君たちがあるのだよ」

「「……」」


 ヘーゼン=ハイムに『ヤバいヤツ』認定されたら、ヤン激怒だろうな、と二人は思う。


「僕は彼らの上官だ。幸いにも、彼らは契約魔法に縛られている。逃げることもできない。だったら、限界まで負荷をかけた方がお得じゃないか」

「「「……」」」


 こんなにもお得感のないお得は初めて聞いた。


「まあ……言っても無駄だろうね」


 こんな感じで、いつも、カク・ズは納得する。


「カク・ズ。暗黒ノ理あんこくのことわりを使う時は、ラスベル、ロリー、ヴァージニアの3人が揃った時、もしくは、僕がいる時にしてくれ」

「……やはり、それだけ危険なんですか?」

「数回、試してみたがカク・ズは暗黒ノ理あんこくのことわりと噛み合い過ぎている。予想以上の出力だったよ」

「……ごめん、俺も途中から記憶がないんだ」


 巨漢の戦士は肩を落としながらつぶやく。


「完全に対中位悪魔用だ。仮に、暗黒ノ理あんこくのことわり凶鎧爬骨きょがいはこつの能力をすべて引き出せば、軍神ミ・シルの実力を上回るかもしれない」

「そ、それほどですか」


 ラスベルがゴクリと生唾を飲む。


「カク・ズ」

「うん」

「僕は君に暗黒ノ理あんこくのことわりを渡したが、君を暗黒ノ理あんこくのことわりに喰らわせる気はない」

「わかってる」

「使用していく中で、どの段階まで解放すれば自我が保てるかのラインを探って運用をしてくれ」

「……うん」

「……」


























 ヘーゼンとカク・ズが、どことなく笑い合っているように、ラスベルには見えた。

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