面会


           *


「ダメです。面会できません」

「……そうですか」


 皇族区へ入る門で、ヘーゼンは衛兵に門前払いを食らった。


「ええっ! 入れないんですか!?」


 ヤンは、信じられないような表情で、あんぐりと口を開く。てっきり、すーだったら最悪、門を破壊しても入りそうなものだ。


「そうみたいだな」

「皇族区の親衛隊長がエマ様なのにですか?」

「実質、ヴォルト様だからな。王妃セナプスの頼みでは、あの方も断れないだろう」

「……」


 先日までとは状況が一変してしまった。


 誰が流したか、皇帝レイバースとイルナス皇太子の不仲説も、すでに天空宮殿中に出回っている。


「……もしかすると、皇帝陛下かもしれないな。意図的に僕を近づけまいとしたのかもしれない」

「相当に嫌われてますね」

「心を読まれるのではないかと訝しんでいるのさ。どうやら、相当に触られたくない記憶らしい」

「で、でもそこまでします?」

「人間、覗かれたくないことの一つや二つはあるものだ。ただ、皇帝というものは、我欲を出せばことさらに大袈裟になってしまうものだ」

「……なんか、あんまりすーは怒ってないですね」

「秘密を知られたくないというのは、ごく自然な感情だ。怒るも怒らないもないよ」

「……」


 確かにすーは、怒ったことがない。叱られたことは、山ほどあるのだが。多分、神経がバカになってるんだな、とヤンは結論づけた。


「そうなってくると、カク・ズさん、バレリア先生、ロリー、ヴァージはどうなりますかね?」


 今は、皇帝派とイルナス皇太子派閥が協力して皇族区を守っているが、この微妙な情勢だと恐らく排除されるのではないだろうか。


「バレリア先生は、もともと皇帝派だからな。ロリー=タデスとヴァージニア=ベニスはまだ若い帝国将官だからな。派閥色が薄い人材は取り込むことも考えるかもしれないな」

「ってことは、カク・ズさんくらいですかね?」

「そうだが……そうなってくると、かなり、心許ないな」

「……」


 ヘーゼンが、いかにカク・ズを信頼しているのかがわかる気がした。


「でも、だいぶ、戦力を割かれちゃいましたね」


 ハッキリ言って、エマ、ヴォルト=ドネア、皇帝派の助力が得られたからこそ、ヘーゼンは好き勝手やってこられたと言っていい。いざ、皇帝レイバースに敵対視されると、天空宮殿内での身動きが、かなり取りづらい。


「……」


 いや、助力がなくても好き勝手やってそうだなと、ヤンは想像で思い直した。


「難しい局面ではあるな。ルクセニア渓国の領土を得たとはいえ、中央での影響力がなければ、イルナス皇太子殿下の援護も、かなり難しい」

「……」

「しばらくは、イルナス皇太子殿下には孤軍奮闘で頑張ってもらうしかないな」

「た、助けてあげないんですか?」

「できない」

「……っ」


 ヘーゼンは、キッパリと答える。


「皇帝レイバース、王妃セナプス、皇子たちが全員敵に回っているんだ。皇族区に僕らの派閥の者を入れることなどできないさ」

「そ、それはそうですけど」

「なんだ? そのために、イルナス皇太子殿下を鍛えたんじゃなかったのか?」

「鍛えましたよ。刺客などにはよほど負けないと思いますよ。でも……」

「でも?」

「また、イルナス様は一人ぼっちになってしまうなって」

「過保護だな」


 ヘーゼンは、やっぱり、キッパリと答える。


「生きていれば、一人の状況になることなんて腐るほどある。好んで、一人の状況に飛び込んで行く者もいるくらいだ」

「……」


 確かにそうだろうけど。でも、どうしても小さい頃のイルナスの姿が目にチラつく。


 心配なものは、心配なんだからしょうがないじゃないか。


「ヤン、イルナス皇太子殿下の強さを信じろ」

「……」

「今、あの向こう側に、僕らにできることはもうない。あとは、あの方次第なんだ」

「はぁ……わかりました。私たちは私たちのやるべきことをやらなきゃですね」


 黒髪の少女も腹を括って答えた。


「その通りだ」

「で、私は次に何をすればいいんですか?」



























「モズコールと会ってくれ」

「……っ」

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