モズコール


「おぱいが好きなーの♪」

「ノッーンノン、おーしりよ♪」


 タトッタトッタトタート♪


「あーなーたー……好みーの♪ おーしーりーぃー♪ わーたしはぁー なーりたーい♪」

「だーたらおーにくーを♪ おーにくーをーたーべなーよ♪」


 タットータトータートタート。


「おーにーくはーふーとるーわ♪ さーかーなをーたーべるーわ♪」

「にー くー をー♪ 食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べー 食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べー♪」


 男が追いかける。


「いーやー そんなーのー♪ ふとーちゃーうううううううううううううううううううぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー♪」


 女が逃げる。


「食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べー 食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べー♪」

「いーやーよー♪ さーわーらーなーいーでー♪」

「だーめーだー♪ にーくーをーたべーるーきーみーをー 食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べー 食べ食べ食べ食べ食べ食べ食べー♪」

「はーなーしーてー♪ あーなーたーなーんーてーきーらーいー♪」

「そーんーなーこーとーいーてー♪ おーまーえーのーあーなー○▲✖️♪」


 セ○クス。


「……」

「……」


           ・・・


「モズコール……1つ聞いてもいいかな?」

「はい、ご主人様」

「僕は、いったい、何を見せられているんだ?」


 帝都歓楽街でオープンした戯館の初日。ヘーゼンは『どうしても』という熱い要望を経て、スケジュールを無理くり捻り出してやってきた。


 目下、皇帝陛下の病状を抑え、一方でルクセニア渓国との戦に一刻も早く参戦しなければ行けない中である。


 店に入って、眼前にいたのは、男女二人。突然歌い出して、今、ここに至る。


「ご主人様……人は……なぜ今も、滅びずに生き続けている思いますか?」

「……っ」


 壮大なテーマを、眼前に絶賛性行為をしている男女がいる前で、ぶつけてきた。


 なんという場違い。


「……僕が思うに、柔軟性だな。あらゆる環境に応じて進化してきたからこそ、人はこれまで滅びずに生き残ってきた」

「違いますセ○クスをしてきたからです」

「……っ」


 いや、もっと根源的な答えだった。


「生きとし生ける者は皆セ○クスをして生きている。植物も、木々も、犬や猫や竜も……」

「モズコール……何が言いたいんだ?」


 ヘーゼンには、目の前の男が測りかねたので、率直に尋ねた。


「人が滅びずに繁栄をするためには、セ○クスが必要不可欠だと言うことです。なのに、帝国は……いや、大陸全体は明らかにセ○クスを軽んじている!」


 中年紳士は、お尻にキュッと力を入れて、パーンと強く叩く。


「ご主人様……断言します。富国強兵の根幹はセックスだ」

「……っ」

「仮に30年後、帝国の人口が倍になれば、大陸を取れます」

「子作り政策か……」


 一理ある……というか、重要なテーマだ。しかし、出生率を高めるのは、かなり難解であることは言うまでもない。


「まあ、無難に産まれた子ども一人につき補助金を出す、とかかな?」

「論外です」

「……っ」


 バッサリいかれた。


「国民あたりのセ○クスのレベルを、セ○クスの価値を向上させればいい。意識の改革を行う……これは、コストゼロだ」

「……な、なるほど?」


 ヘーゼンは疑問符で頷く。


「目の前で楽しくセ○クスをしている男女がいる。それを見て、他人は自分たちもセ○クスをしたいと思う。私は、こういう循環を作り出したいのです」

「……」

「楽しむセックスはダメ? バカかっ! 楽しくなきゃ、セ○クスなんてやらないだろ! 義務で子どもを産むためだけのセ○クスなんて、レスになるに決まってるだろう! より、高度で、より快感を感じるセ○クス……これしかないんです!」


 モズコールは自分の尻をパンパンと叩く。


「セックスは……より、フリーでセクシーであるべきなんです」

「き、君の主張はわかった」


 とにかく、ヘーゼンは落ち着いて欲しかった。一旦、それまくった話題の修正を図る。


「それで、今日のこの店はどういうーー」

「セックスミュージカルです」

「……っ」


 何、それ? とヘーゼンは思った。


「人は声を出して歌うことに快楽を覚える生き物です。同時に、セ○クスをして、見てもらう。こんなセ○クスもあるんだと……こんなにセ○クスは楽しいものだと知ってもらうのです!」

「……」


 ヘーゼンは表情の作り方がわからなかった。


「入ってくれ」


 モズコールは、パンパンと自らのお尻を叩くと、ベビーカーに乗ってきた


 2人の屈強な護衛とともに、巨大ベビーカーに乗った、いい大人が入ってきた。当然、オムツとおしゃぶりは装着済みである。


「き、君の名は?」

「……ぷいっ」


 ヘーゼンにイヤイヤとそっぽを向いた彼は何かを待っているが如く、ベビーカーの上で微動だにしない。


「ニィア」

「は、はい」


 一方で、モズコールが尻をパンパンと叩いて一人の女性を呼ぶ。彼女はゴクリと生唾を飲んで手をパンパンする。


「あ……あんよは上手。あんよは上手……あんよは上手……あんよは上手……あんよは上手……あんよは上手……」

「あん……ばぁ……」

「……っ」


 う、動いた。さっきまで、『俺はここから微動だにしない』というストロングスタイルを貫いていた男(オムツ)が、老人……いや、赤ちゃんのように震えながら、こっちに歩いてくる。


 まるで、生まれたての子鹿のように。


 そして、やっとの思いでニィアと呼ばれた嬢の元に辿り着いた赤ちゃんベビー・フェイスはドヤ顔で彼女の方を見る。


「え、えらいねー。えらいねー」

「ばぶー」

「……っ」


 恥ずかしくないのか、とヘーゼンは思う。


「彼は赤ちゃんベビー・フェイス。帝国の歓楽街を取り仕切る男です」

「……っ」


 そう言って、いつの間にかオムツを装着していたモズコールはキュッと尻に力を入れて、赤ちゃんベビー・フェイスに語りかける。


「哺乳瓶のミルクはーー」

「常温よりもややぬるめ……だろ?」

「ふっ」

「よく来た、友よ」

「……っ」


 モズコール(変態)と赤ちゃんベビー・フェイス(変態)はガッチリと抱擁をする。


 赤ちゃんベビー・フェイスは、んごっくんと、ミルクを飲む。


「ご主人様……私には、夢があります!」


 モズコールは、真っ直ぐな瞳を向ける。


桜の木チェリーブロッサムの下で、オー○ルセ○クスを楽しむ。隣には無二の親友である赤ちゃんベビー・フェイスが気持ちよさそうに眠って、隣の私はおしゃぶりをして、当然オムツを装着して、足パッカーンして……ニコニコ笑顔の娘に言う。『桜が綺麗だね』ってね」

「…… 桜の木チェリーブロッサムの下で」

「ああ……」

「…… 桜の木チェリーブロッサムの下で」

「「桜の木チェリーブロッサムの下で」」

「……」

「……」


          ・・・


「ご主人様……」

「な、なんだ?」

「どうか、政権を取ってくださいませ」





























「私に大臣を任せてくれれば、5年で帝国の出生率を3倍にして見せます」

「……っ」

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