予想
*
そこからは、子どもと
実に、その攻防が1時間ほど、続いた。
やがて。
「た……ま……きゅ……ん……」
『負ければ生涯奴隷』というもう変えようのない十字架を背負ったクラークは呆然としながら、眼球をガン開きにしてへたり込む。
一方で。
「では、1週間後に。詳細は、ラスベルの部下と詰めてくれ。彼女も忙しいからね。正々堂々、いい戦いをしよう」
「「「「……っ」」」」
弾けんばかりの青春爽やかスマイルを浮かべ、ヘーゼンはドェリャ工房を出た。ラスベルもまた、逃げるように去り、
「……鬼畜」
「ん? 誰のことだい?」
「す、
最初から仕組まれていることだった。初日に製作した魔杖は、彼ら魔杖16工の手練れが対抗できるぐらいのレベルに調整されたものだ。
彼らに分析されることも考慮に入れていたのだ。
そんな撒き餌に、
「ほ、本当に彼を奴隷にするつもりですか?」
「もちろん。有望な魔杖工だからな。むしろ、しない理由が思いつかない」
「……彼の魔杖製作のモチベーションは大きく下がると思うんですけど」
奴隷契約は、行動を強いることはできるが、自発的な行動を促すことはできない。なので、一般的な奴隷にクリエイティブな仕事をさせるのは難しいと考えられている。
だが。
「それも、指示の仕方1つだ。大きな目標を餌にして、奴隷解放の条件にしてもいい」
「……」
なるほど。要するに、『帝国一の魔杖工になったら解放する』などだろう。確かに、それならば彼も生きる希望が湧くのかもしれない。
鬼畜の所業だが、やはり、豊富な経験者は言うことが違う。
「……」
ただ、
「僕は彼に期待しているんだよ」
「……っ」
どの口が言うのー!? とラスベルはガビーンとする。
「彼のピークは、まだ先だ。彼の言動なんかを見ていると、明らかに調子に乗っているからな。その
「……そんなものですかね?」
「僕は学生時代に同じように決闘で終身奴隷契約を結ばせたクラスメートがいるが、彼はそうだった」
「……っ」
サラッと、とんでもないこ言ってるー。
サラッと、終身雇用契約みたいに言うてるー。
「あくまで戦略上の目的だったが、学生時代に40歳歳上の熟年女性名門貴族と結婚させたところ、『もう、俺には出世しかない』と人一倍出世に固執するようになった。今では、同期でも僕とエマに次ぐ出世頭だ」
「……っ」
セグゥア=ジュクジォだ。
噂にはチラホラ。『夜の女帝』と名高いレアピッグ=ジュクジォの婿養子だ。文字通り、出世することしか頭にない仕事の鬼であり、帝国でも有数の秀才でもある。
『出世のために人生を捨てている』とまで影口を叩かれている男だ。
ヘーゼンやエマのような出世株爆上がり超筆頭の背中を見て、よくそれほどモチベーションを保っていられるなと思っていたが、まさか、終身奴隷契約を結んでいたとは。
「そういえばセグウァ=ジュクジォを紹介してなかったかな。人事院の中堅エースなので、今度顔合わせさせる」
「だ、断固として遠慮したいですけど」
とにかく、どんな顔をしていればいいのか、わからない。
「とにかく、セグウァの例もあるようにーー」
「……」
さっきから、サラッと行きすぎているが、その例が極めて特殊なのだけど、とラスベルは思う。
「どのような行動がモチベーションに繋がるのかは、個人差があり、試行錯誤だ。セグウァのように、
「ひ、1つ1つ潰された側にとってはたまったもんじゃないと思いますけど」
「まあ、奴隷だからな」
「……っ」
奴隷に厳し過ぎるー。
「それに、勝負も何が起こるかわからない。クラークは優秀な魔杖工だ。だからこそ、事前準備をした訳だし、精神的な面を追い詰めた」
「……」
ヘーゼン=ハイムの、いつもの手法だ。勝負前に、相手の心を徹底的に揺さぶる。石橋を叩いて叩いて、絶対的な勝利を得るために、あらゆる非道な努力を惜しまない。
「一方で、期待している部分もある。追い詰めて追い詰めた先に覚醒して、さらに素晴らしい魔杖製作をする場合もあるからな」
「……」
一見して相反しているような発言も、ヘーゼン=ハイムらしいなと思う。相手に対し過度な負荷を与えつつ、それでもなお反発して伸びてくる者たちを常に求めている。
ヤン=リンのように。
「でも、そうしたら
「勝負に絶対はないからな。負けもリスクも覚悟の上だ」
「ちなみに、彼が
「そうだな……一概には言えないが、飛躍的な成長を見せればーー」
「0.00001%の確率で負けるな」
「……っ」
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