【小説３／１９発売＆コミック３／２８連載開始】平民出身の帝国将官、無能な貴族上官を蹂躙して成り上がる

ヘーゼン=ハイム（１１）

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　ヘーゼン=ハイムは嘘をつく。

　破門された元弟子は、そう語る。そして……その嘘は見破ることが非常に困難だとも。

　どこから仕掛けていたのか？

　戦闘前……魔長６人を葬りさる前……ベルモンド要塞に入る前……それとも……

「ここに到着した時からだよ」

「……っ」

　武聖クロードの疑問符に答えるように、ヘーゼンは不敵に笑う。

　この場にいる全ての者に宣戦布告をした時点で、すでに種は巻いておいた。真時空烈断の不吉な音……このインパクトが全員の脳裏に植え付けられ、以降は音が鍵（かぎ）となると思い込ませた。

　しかし、実際には違う。

　ヘーゼンの持つ魔杖『空蝉ノ声（うつせみのこえ）』は、範囲内であれば、音を自在に移動させることができる。

　あらゆる罠を張り巡らせている。

　ヘーゼンは、全員に見せつけるように派手に戦い、幻光夜鏡（げんこうやきょう）が、さも、彼らの想定し得る能力であるかのように演技した。

　武聖クロード、魔戦士長オルリオ、魔軍総統ギリシア……いや、誰もが見ている目の前で。

　幻光夜鏡（げんこうやきょう）の能力は３つ。

　１つ、幻影体（ファントム）が出現したと同時に、自身の姿と気配を完全に消すことができる。２つ、幻影体（ファントム）が消滅すると、実体が姿を現す。

　ここまでは武聖クロードの読み通り。

　だが、３つ目は違う。対象者が見た幻影体（ファントム）を、指定した相手に映し出すことができる能力だ。

　『音』に関しては、ヘーゼンが仕込んだ罠。敢えて特定の幻影体（ファントム）に仕込み、条件付きでなければ音が出せないように思わせた。

　魔杖の誤解釈（ミスリード）。ヘーゼンの狙いは、最初からそれだった。

　道筋は作った。

　あとは、武聖クロードが誘導した結論まで行き着くのを待てばいいだけだ。人権ノ理（じんけんのことわり）の能力は、至極単純な身体能力向上だ。

　超視力で嘘を見破る能力があることは容易に想像ができた。

　一度、真実だとみなし、思い込めば、もう疑うことはない。特に、武聖クロードは、幾万の人を観察して、嘘を見破る術を得た。

　表情から、仕草から、癖から、その人の行動を読むことで、自身の習得した技に絶対的な自信を持つ。

　一方で。

　ヘーゼン=ハイムは、心すらも読む相手と死闘を繰り広げてきた。それ故に、嘘を嘘と認識しないような反応は、自然に身についていた。

　経験値の差だ。

　嘘を見破ることができると確信し、それを疑わなかった者。一方で、幾人もの嘘を見破る強者と戦い、生き残り、踏み躙り、頂（いただき）に立つ者。

　罠（トラップ）は至極単純なものだった。

　痺れて動けない魔戦士長オルリオを、別の場所へと移動させ、指の鎖ほどしかない小さな魔杖『空蝉ノ声（うつせみのこえ）』で、ヘーゼンの呼吸音を巧妙に紛れ込ませる。

「ぬ、ヌシの動きには注意を払っていた。魔戦士長オルリオを移動させるような魔法を使う隙はーー」

「僕じゃないよ」

「……っ」

　瞬間、武聖クロードは、一筋の汗を流す。

　彼の思考の外にいた存在……やっと、ジオラ伯のことに気づいたらしい。彼の魔杖、大地ノ理（だいちのことわり）をもってすれば、そのような芸当が至極容易なことに。

「僕は勝つためなら、多数で１人を蹂躙することを厭わないからね。使えるものは、使わせてもらう」

　加勢を頑なに断る性格（キャラ）を演じたことで、武聖クロードは疑いもしなかっただろう。不遜で傲慢な振る舞いをするヘーゼン=ハイムと言う人間を確定し得るには、それで十分だった。

　ヘーゼンは戦闘の時に、さまざまな角度から分析する。性格や能力だけではなく、思想、信条、考え、経験値など、彼らの生き方やその会話などで、できる限りその要素を引き出す。

「自身の経験則を至上のものとするあなたの価値観は、揺るがすのは難しい。だからこそ、一度でも誤らせれば、後は省みることはなく真っ直ぐに進むだけだ……すなわち、警戒するのは、最初だけ」

　あくまで、武聖クロードが考えるヘーゼン=ハイムの尺度で、あり得る事象を当て嵌める。差し出された餌に食いつけば、もはやそれを離すことはしない。

「他の違和感には本能的に目を瞑る。騙すのは、至極容易（チープ）だったよ」

「……カッカッカッ！　見事……こりゃ、見事にハメられたわい」

「……」

「で？」

　武聖クロードは、豪快に笑い尋ねる。

「小賢しい……いや、小賢しすぎる魔法使いであることはわかった。だが、それだけだ」

「……」

「ヌシの強さが、ワシを上回った訳じゃない。魔戦士長オルリオがいなくとも、負ける気がせんな」

「はぁ……やはり、勘違いしてるな」

「何？」

　ヘーゼンは小さくため息をつき。

　武聖クロードは、怪訝な表情を浮かべる。

「僕が怖かったのは、魔戦士長オルリオの回復力だけだ。長期戦になれば、ズルズルと魔力の消費をすることになるからね」

　魔戦士長オルリオが喰らった打撃は、人体の回復を致命的に遅らせるものだ。暗黒ノ理（あんこくのことわり）と言えど、すぐに戦線復帰はしないだろう。

「……ワシなら、容易に勝てると？」

「そう言っている」

「クッ……カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ！　面白い！　小器用なだけの魔法使いがワシに勝てるものなら勝ってみろ！」

　白髪な老人が、不敵に笑う。

　一方で。

「ククク……」

　黒髪の青年もまた、確信めいた笑みを浮かべ。

　手におさまった魔杖の銘をつぶやく。

「修羅ノ掌（しゅらのしょう）」

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【あとがき】

　こんにちは、花音小坂です。いつも、コメント、レビュー、評価、応援、誤字訂正本当にありがとうございます。また、返信できてなく申し訳ないです。

　サクッと宣伝させてください。

　本日４月２５日にヤングエースUPにて、帝国将官の最新話がアップロードされます（無料です！）。ぜひぜひランキング向上、作者モチベ向上のため応援お願いします！

　……と今は４月２５日の６時４０分。出社は７時……ストックはゼロ笑　GWまであと１日。常にギリギリのダメ作者ですが、今後とも何卒よろしくお願いします。

　追伸：いつも先読みありがとうございます笑　この魔杖の効果……わかりますかね？　コメント欄はなんでもござれで、盛り上がってくれているのはいつも嬉しく思ってますので、皆様楽しんでGWを迎えてください！