へーゼン=ハイム(5)
*
肩慣らし? 魔軍総統ギリシアは耳を疑った。上空で、これだけ好き勝手やっている蹂躙行為が、まるで本気じゃないかのように。
そんな訳がない。
「あ、あ、あんまり、鼻息を荒くしない方がいいわよ? あなたのような調子こいた
大国のトップ級を倒す
だが、そんな者たちの躍進劇など、ずっと続くはずもない。彼らは、ことごとくなぶり殺しの憂き目に遭い、歴史から消去された。
重要なのは、長期間勝ち続けることだ。
大陸のトップ級は、少なくとも10年以上はその座を守り続けなければ名乗れない。そう、まさしく自分たちのような存在なのだ。
「……クッ、クククククッ」
魔軍総統ギリシアは次第に落ち着きを取り戻し、嘲ったように笑う。
「クククククククククククククッ。そう、そうよ。あなたは所詮、マグレでトップ級を倒したポッと出の勘違い男。痛々しいこと、この上ないわね」
「……フッ」
だが。
へーゼンは、眼下の男を、圧倒的に見下し笑う。
「若いのに、老害が過ぎないか?」
!?
「な、な、なんですってええええええええええええええ!?」
「ああ、すまない。ちょっと表現が漠然とし過ぎたかな。『有能な
「……っ」
おおよそ、意味は伝わっていたのに。
問われたからって、二度言いやがった。
「しかも、
「はっ……くっ……おっ……」
「お手頃な
「ぐっ……ギギギギギギギギ……キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! 何をやってるの!? 撃て撃て撃て撃てっ! あの蠅を早く撃ち落としなさい」
魔軍総統ギリシアは、ルクセルア渓国の魔軍に甲高い叫び声で指示をする。彼らは慌てて魔法弾をヘーゼンめがけて撃ち込む。
ヘーゼンは空中を自在に飛翔し躱わすが、その魔法弾の多さに、逃げる場所を失う。
「そこ! そこよ! 一気に全弾撃ち込みなさいいいいいいいいい!」
その号令とともに、ありとあらゆる魔法弾が隙間なく撃ち込まれる。
だが。
「
ヘーゼンが右手の魔杖を持ち替えると、光のヴェールが周囲を覆い、魔法弾をそのまま跳ね返す。
「「「「「「うわあああああああっ!」」」」」」」
魔軍の魔法使いたちは、自身の放った魔法に追われて散り散りになる。
「くっ、なんなんのよ! その忌々しい背中のそれはああああああああっ!?」
ヘーゼン=ハイムの背後にある8つの魔杖。それらが、状況のたびにヤツの右手に収まっていく。
特級魔杖の大業物は、1つの魔杖で多くの魔法を放てるものが多いが、種類の幅は、その魔杖の特性に限定される。
だが、ヘーゼン=ハイムは違う。属性、特性など関係なく、あらゆる幅の魔法を状況に応じて使い分けてくる。言わば、究極の後だしジャンケンだ。
「こ、ここここここんなはずじゃなかった! こんなはずじゃ……こんなはずじゃあああああああああああっ……な・ん・て・ね」
「……」
取り乱した
魔医長ラクトス、魔剣長ルルトガス、魔鎧長ドスボルグ、魔光長ボルゼグ、魔幻長ゴルゾナ、魔水長リョクマク。
「クッ……ククククククク! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! あれで、終わりかと思った? おあいにくさま、切り札と言うのは最後まで取っておくものなのよ!」
英聖アルフレッドは、本命の北にこそ戦力を集中させた。武国ゼルガニアの圧倒的な戦力を背景に、魔戦士長オルリオ……そして、総勢で10人の魔長クラスを派遣させるなど異例中の異例である。
たとえ、大国のトップ級であろうと、1人で太刀打ちできるとは、到底思えない。
「どうする? ど・お・す・る? どーすーるー? 死んだジオラ伯に助けでも求める?」
「……」
魔軍総統ギリシアは、心地よさげにヘーゼンに向かってる尋ねる。
「あら、気づかないとでも思った? ごめんなさいねー、わ・た・し! 大陸一の魔医でもあるんですううううううううううううっ!」
誇らしげに、自慢気に言い放つ。2日前、ジオラ伯の病状を確認した時点で確信した。あれでは、もうもたない。絶対にあの
「一度、城の中に入ったわね? ジオラ伯の病状を確認するためでしょう? で、どうだった? ど・う・だ・っ・た・ん・で・す・か!?」
「……」
神経質な男は、何度も何度も、しつこく、粘着質に聞き返す。大方、想像はつく。ヘーゼンとしては、ジオラ伯の存命を期待していたのだろう。
だが、間に合わなかった。予想に反して、すでに彼は死んでいたのだろう。だから、さも形勢が逆転したかのように演じ、反帝国連合軍を早期撤退に追い込みたいのだ。
苦し紛れのハッタリだ。
「そろそろ強がりはやめることね。頼みの四伯がいない今、あなたたちの死は間違いなーいの」
武聖クロード。魔戦士長オルリオ。そして、武国ゼルガニアの武長クラス9人(1人は戦死したが)。これほどの大戦力など、それこそジオラ伯不在では戦線を保つことなどできない。
新興のポッと出の戦力で、歯が立つものじゃない。
青の女王バーシア? 所詮は、辺境の腕自慢だ。元
「……」
だが。
黒髪の青年は、上空から彼らを見下ろし、ボソッとつぶやく。
「……まさか、これで終わりか?」
「はっ?」
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