へーゼン=ハイム(4)
「はぁ……はぁ……こ、ここは!?」
ジオラ伯は、起きて意識を取り戻す。すると、ガバッと美女が抱きしめる。
「よかった……本当に……よかった……」
「……ラビアト」
痩せこけた老人は、優しく彼女の頭をなでる。
「感動の再会は後にしてください。それよりも、
「……っ」
雑に雰囲気をぶち壊しにしたへーゼンは、ジオラ伯に向かって詰め寄る。
「ヌシがへーゼン=ハイム……か?」
「はい、初めまして。ゆっくりとお話ししたいですが、今はそんな場合ではない。刻一刻と戦況は進んでます」
「……ふん、なるほどな。子憎たらしいほど、いい面構えをしておる。おい、もってこい」
「は、はい!」
ジオラ伯は、側近に指示をして、
「……ありがとうございます」
黒髪の青年は少しの間、目を瞑って試行錯誤を繰り返す。
「使えんじゃろう?」
「残念ながら。ラビアト様は?」
「使えん。何度も確かめさせたがな」
「でしたら今度、我が学院の生徒で試させてください」
「……なぜじゃ?」
「真なる
第1候補としては、ヤン、ラスベル。次点で、ロリータ=デス、ヴァージニア=ベニス。それでも、ダメであれば特別クラスの見込みのある生徒から。
というか、ジオラ伯を生かしたのは、この権利を勝ち取るためが大きい。帝国に接収されれば、へーゼンの下には二度と帰ってこない。対立派閥に渡すには、この魔杖はあまりにも強力だ。
「くっ……くくっ。清々しいほど強欲なヤツじゃの」
「それくらいの権利はあるでしょう? 僕は、あなたの命の恩人だ」
「……」
「北に圧倒的な勝利をもたらすために来ました。あなたの最後に華を添えて差し上げるのですから、対価として相応のものを頂きたい」
「……ふっ、ラビアト。貴様にも、この貪欲さの半分でもあればの。よかろう……ただし、勝てればな」
「ありがとうございます」
へーゼンは、ニッコリと笑顔を浮かべる。
「では、さっそく。再び、あなたには死んだフリをしていただく」
「なに?」
「一度、死んだと思わせられたのはプラスです。相手も、それで油断してますから、そこでハメられるはずです」
「……わかった。だが、ワシの魔力がどれだけ戻るか」
「いい薬があります。ねえ、ギボルグ様?」
「おっぷぁしゃぶれぃいいいいいいい! も、もももおおおおおおおおおずぅ……こるああああああああああにいいいいいいいいいいいいいいいい!? あにいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「……っ」
廃人は、ウィンウィンと首を前後上下左右しながら、泡を吹いてプルプルとムーブする。
「ジ、ジオラ伯に、こんな魔薬をぶち込む気ですか!?」
「いいじゃないですか、どうせ、すぐ死ぬんですから」
「……っ」
ニッコリ。
「さて、では僕は行きます……」
「えっ!? どこに」
「決まってるでしょう。戦場です」
へーゼンは、自身の魔杖『
「やっと、2等級の宝珠でやっとというところです。飛翔することのできる魔法は」
「……っ」
そうつぶやき。
黒髪の魔法使いは、北方ベルモンド要塞の城郭を飛び上がって悠然と飛翔し、そのまま戦場へと向かう。
「「「「「……っ」」」」」
ジオラ伯も、ラビアトも、その場にいた全員も、あんぐりと口を開ける。
飛行能力。
その能力を持つ魔杖の持ち主は、大陸の中でもかなり少ない。
それらはいずれも、特級宝珠を持つ大業物だ。
それだけ制空権を制するというのは、戦闘において重大なことだ。
これまで飛翔能力の付与は、多くの魔杖工が挑み、失敗してきた。まず、製作の難易度が非常に高い。加えて、魔力の操作レベルも格段のものを要求され、その高みにまで昇れる魔法使い自体が希少であること。
以前、へーゼンが使用していた『
バーシア女王の
ひたすらの試行錯誤。
低等級の宝珠から高等級の宝珠に切り替えたことで、クミン族の宝珠の源泉を使用して魔杖工としての腕を磨き続けたことによって、へーゼンはようやく飛翔能力を手に入れた。
そして。
眼前に、敵兵の軍を見下ろしながら、背中に8つの魔杖を出現させる。攻撃魔法としては、5等級の魔杖が最高だったが、今回は1等級魔杖など大業物も複数存在する。
へーゼンは、もう片方の手に収まる魔杖を翳す。
「まず、1つ目……
「「「「「ぐわああああああああああっ!」」」」」
その大炎は、圧倒的な広範囲を誇る。以前の
「くっ……撃て撃て!」
対する敵軍も魔法弾を次々と撃つが、へーゼンは、まるで上空を自由に飛翔する鷹のように縦横無尽に動きかわす。
「くっ……なーんなのよ! あの化け物は!」
地上にいる魔軍総統ギリシアが、悔しがりながら叫ぶ。
「
へーゼンは、なおも、上空からの一方的な攻撃をやめない。長距離の光属性の矢を一撃を次々と放ち、指揮官を1人ずつ撃ち落として行く。
そして。
「はっ……きゃ……こっ……っきゃあああああ」
魔軍総統ギリシアにも、
「い、い、い、いい気になってんじゃないわよおっ!」
神経質な男は、焦った表情を見せながら叫ぶ。
だが。
「そんなつもりはない」
「えっ?」
「肩慣らしだよ」
「……っ」
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