弾幕
*
その頃、上級貴族の陣営では、宴会が始まっていた。次々と、報告される敵の拠点の陥落報告。すっかり気を良くした彼らは、機嫌よく酒を飲み交わす。
「残すとこーろ、落とすのはカカオ郡の主城、ゼノバース城1つだけですーな……うっぷっはぁ!」
ドスケ=ベノイスは、ワインをゴキュンゴキュンと飲みながらつぶやく。元々カカオ郡は、彼の領地であったので感激もひとしおである。
「しかし、本当に雑魚でしたな、いや、本当に、雑魚」
「いや、むしろ、雑・魚・中・の雑・魚。雑魚中の雑魚!」
「……」
「……」
「「えへ……えへへへへへへへへへへへへ!」」
クラリ=スノーケツとバッド=オマンゴは、互いに顔を見合わせながら笑う。
そして。
「最後は、我ーら、全員で行きませんーか……ヒック……あの、忌々しいへーゼン=ハイムに、我々の力を見せつけてやるのーだー!」
酔っ払ったドスケ=ベノイスが高らかと叫ぶと、全員が「いいですなぁ」と言いながら、千鳥足で歩き出す。
「あ、ただいまよりー! 全軍ーを持ってぇー! ゼノバース城へ突撃すーる!」
そう宣言すると、上級貴族たちもまた口々と叫ぶ。
「へーゼン=ハイムを、どうしてくれましょうか!?」「まずは、土下座! これは、絶対に外さない! 我々の受けた屈辱を、100倍……いや、1000倍返しだ」「海老反り土下座も必須ですな!」「いや、どんな土下座をさせてやろうか……心躍りますなぁ! コ・コ・ロ・オ・ド・ル! ココロオドル!」
その時。
陣営の中に、急ぎ足で伝令が入ってきた。彼は息をきらしながら、真っ青な表情を浮かべている。
「はぁ……はぁ……も、も、申し上げます! 敵軍が、へーゼン=ハイムがーーあ゛っ」
最後まで言い終わることなく、伝令はフッと気を失い崩れ落ちた。
そして。
「「「「「「「……っ」」」」」」
竜騎に跨ったへーゼン=ハイムが陣営内に入ってきた。そして、後方には同じく竜騎に乗った数十騎の兵たちが迫ってきている。
「……」
「……」
・・・
なんだ。
いったい、なにが、起きているのだ。
「あべ? ぶす? べろ? ぶす? ばい? ぶす? ぷれ? いいぃ!?」
上級貴族のフェチス=ギルは、事態が全く飲み込めずに、さまざまな擬音で驚きを表現する。
「あっ……どういうことだ!?」「おい! 伝令、聞いてないぞこんな話!?」「へーゼン=ハイム……わ、わざわざ降参しにきたのか!」「今更そんなこと許されないぞ! というか、なんだその巨大な……説明しろ! 説明しなきゃわからないだろう!」
他の貴族の面々も、混乱し、かつ、酔っ払っているので、さまざまなことを勝手気ままに叫ぶ。
だが。
へーゼン=ハイムは、上級貴族の方などまったく見ずに、後ろばかりを見つめている。そして、凄まじいスピードで追いついてきた竜騎兵たちに向かって話しかける。
「40騎弱か……君たちは各軍の中隊長に任命する。マドン殿、彼らの下に各200人をつけ、編成してください」
「はっ!」
当然のように隣にいる白髪の老将もまた、上級貴族たちなどアウトオブ眼中で、ヘーゼンと意見を交わしていく。
「魔法使いとそうでない者を分ける必要があります」
「把握できてます。千弱が魔法使いで、残りの7千が魔法を使えません」
「さすがです。魔法を使えぬ者には、
「わかりました。適宜判断いたします」
「頼みます」
「む、む、むむむむむむーし! 無視するーな!」
ドスケ=ベノイスは顔を真っ赤にしながら叫び、自身の魔杖を高らかに掲げる。
「い、いいいいいいい一騎打ちーだ! い、い、一騎打ちを申しこーむ!」
そう叫んだ瞬間。
上級貴族の面々から歓声が上がる
そして。
「流石はドスケ=ベノイス殿だ。大将軍グライドを倒したあの男と一騎打ちとは」「これぞ、真の男……いや、
賞賛、嫉妬、羨望が入り混じったことを口々に言い合う。
そんな中。
一通り指示を終えたへーゼンは、竜騎を降りて上級貴族たちに向かって歩を進める。
慌ててドスケ=ベノイスは、自身の魔杖を高らかと掲げて叫ぶ。
「やあやあ、ベノイス家の当主ドスケであーる! 我がベノイス家に伝わる『
「……」
「うぉい! 次は貴様の番だろ! 貴様のーー」
パシっ。
「あっ……」
ドスケ=ベノイスの魔杖が、瞬時に、ヘーゼンの
「くっ……無礼な平民出の卑しき者だーな。一騎打ちのルールも……あっ、おい……おーい!」
ヘーゼンは、至近距離まで近づきドスケ=ベノイスの胸ぐらを掴む。宙に浮かあげられた彼は、足をバタバタつかせてもがく。
「うっうぐっ……き、貴様ーぁ! 離せ! はなーせ! こんな……私を誰だと思っていーる! 不敬だー! 不敬不敬不敬不敬ー! 不敬不敬不敬不敬ーふけー……げげげげぃ! ふげげげげげげっげげげげげげ! ふげげげげげげっげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげげぃいいいいいいいい!」
拳の弾幕が。
ドスケ=ベノイスの顔に、正面、右、左、上、下、あらゆる角度から叩き込まれる。
やがて。
ヘーゼンが手を離すと、すでに生命停止のピクついた反応をしている彼は、壊れた人形のように地面へと落ちた。
そのマウントをとって。
・・・
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