首都アルツール攻防戦(3)


 グライド将軍が氷絶ノ剣ひょうぜつのけんを放ち、ザルエグ将軍の周囲に薄氷を拡げると、ジュノエ将軍とギシ・ガ将軍がそれぞれ魔杖を翳す。


炎華朱麗えんがしゅれい

焔ノ陣ほむらのじん


 瞬間、周囲に炎の渦が舞い、瞬く間に薄氷を溶かす。更に、四方に立ち昇る炎柱で、一瞬にして水蒸気と化した。


「よし!」


 作戦は的中した。炎華朱麗えんがしゅれい焔ノ陣ほむらのじんはともに、防御型の魔杖だ。薄氷は敷かれた時点では非常に脆いものなので、容易に蒸発させることができた。


 相生魔法。互いに同様の属性魔法を掛け合わせることで、飛躍的に効果をもたらす高等技術である。タイミング、魔力量など非常に精緻な調整が必要になるが、将軍級ともなれば息を合わせること自体は容易い。


「ほほう。ならば、これは?」


 若者の抵抗を喜ぶかのように、グライド将軍は火炎槍かえんそうをぶっ放す。


氷河絶牢ひょうがぜつろう

「流水ノりゅうすいのじん


 こちらも水属性の相生魔法で対抗する。無情に襲いかかってくる巨大な炎の塊は、湧き起こる水で威力が弱まり、最終的に氷陣で霧散させた。


「よし!」


 相生魔法は威力が上がるが、魔力の消費自体は各々同じなので無理に出力を上げる必要もない。これならば、グライド将軍の攻撃を負担が少なく長時間防ぐことができる。


 氷絶ノ剣ひょうぜつのけん、そして、火炎槍かえんそうが完璧に防がれたグライド将軍は、感心したように長い顎鬚を触る。


「おお。やはり、ヌシらは強力な魔法使いじゃな。今からでも、遅くはない。こっちにつかんか? 裏切れば、氷絶ノ剣ひょうぜつのけん火炎槍かえんそう。くれてやってもいい」

「今、くれれば考えますがね」


 ザルエグ将軍は軽口を返しながら、これからの戦術を張り巡らせる。相性魔法で、なんとか攻撃を防げる体制を構築した。このまま粘れば、やがて、援護もやってくる。


 あとは、もう2人ほど将軍が集まれば、攻勢に転じられるはずだ。


 だが、その不敵な老人の笑みは止まることはない。


「かっかっかっ! では、ほーんの少しだけ、本気を出すかの」


 そう言ってのけ。火炎槍かえんそう氷絶ノ剣ひょうぜつのけんを交互に合わせる。


「この2つの魔杖は二対一体として制作されたものじゃ。強敵相手でなくば、なかなか使用しないがの」

「くっ……」


 火炎槍かえんそうがより紅く、氷絶ノ剣ひょうぜつのけんがより蒼を増していく。凄まじい魔力が両手に集約し、二対の大業物に伝わっていく。


「炎氷絶技」


 そうつぶやき。


 二対一体の大業物を、見惚れるような動きで振り抜く。


「舞えーー氷竜、炎孔雀」

「……っ」


 火炎槍かえんそうから放たれたのは幻獣であった。炎が孔雀の姿を形成し、氷絶ノ剣ひょうぜつのけんから放たれた氷が竜と成る。


 それら2体の幻獣は、まるで生きているかのように彼らに向かって襲いかかる。


 高速に飛翔した炎孔雀は、悠々と地上に這うように飛翔し、兵をことごとこく焼き殺していく。一方で、氷竜もまた、吐息ブレスを一帯に撒き散らし周囲の兵を氷漬けにしていく。


「お、落ち着け!」


 ザルエグ将軍は叫ぶ。確かに、不規則な生き物のような動きで翻弄をされるが、相生魔法で防げない攻撃ではない。


 炎孔雀が、こちらに襲いかかってくる間に、ザルエグ将軍とジュナ将軍は互いに息を合わせて相生魔法を放つ。


氷河絶牢ひょうがぜつろう

「流水ノりゅうすいのじん


 かん


 まるで、檻に入れたかのように炎孔雀を、相生魔法の魔法壁で閉じ込める。


「よし」


 ジュノエ将軍も。ギシ・ガ将軍も。ザルエグ将軍も。ジュナ将軍も。他の軍長ですら、こちらの有利を確信した。


 だが。


「ククッ」


 グライド将軍の笑い声と共に。


 それは、尽く、一瞬にして霧散した。


「バカ……な」

「炎孔雀の羽は、火炎槍の炎を超凝縮したものじゃ。その温度は、火山のマグマ並みにもなる。ヌシら程度の魔力と魔杖であれば、相性魔法など意味を成さない」

「……っ」


 マグマの温度は900度から1200度。火山に脈々と流れる溶岩並みのレベルなど、想定すらしていない。


 次元が違い過ぎる。


「いかん! 全員、撤退をーー」

「その判断も遅いな」


 グライド将軍は、更に火炎槍かえんそう氷絶ノ剣ひょうぜつのけんを交互にして綺麗な弧を描く。


鳥竜演舞ちょうりゅうえんぶ


 瞬間。氷竜が咆哮をあげ、ザルエグ将軍の周囲一帯に吐息ブレスを撒き散らす。絶対零度の氷柱が至るところから発生し、たちまち、その場から一歩も動けなくなる。


 そして。


 炎孔雀が高速で上空に飛翔し、何千もの羽を撒き散らす。


 その一本一本が。


 マグマ並みの温度を持つ高温度の羽だ。


 ザルエグ将軍も。


 ジュノエ将軍も

 

 ギシ・ガ将軍も。


 ジュナ将軍も。


 叫び声を上げる暇もなく、跡形もなく消滅した。





















 初日。グライド将軍による被害。クーデター軍は、将軍4人。軍長15人。兵8千……そして、東軍の指揮官ジェラルドを失った。

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