狩られる者
*
「ふ、ふざけるな! 貴様……この状況をわかってるのか!? 8万の大軍が、今にもここ首都アルツールに攻め込もうとしてるんだぞ!? バカなのか!? 無能なのか!? ゴミなのか!?」
「貴様のようなバカと一緒にするな! そもそも、貴様が大量に離反者を出しておいて、よくそんな言葉を吐けるな!? このバカ無能ゴミが!」
「くっ……」
「私だって、この状況は理解している。だから、イリス連合国の本軍を戻すことには反対しない……ただ、ヤアロス国にも同様派遣しろ!」
「な、なんだとっ!?」
「当然だろう。私の国だって攻め込まれているんだ。クゼアニア国に10万。ヤアロス国に向けて10万。同時に派兵すれば、ノクタール国軍など殲滅できる。これで、万事解決ーー」
「否決だ」
!?
「ふ、ふざけるな!」
「貴様こそふざけるなよ! どさくさに紛れて援軍の無心か! さっき断っただろう! 貴様のところは、貴様でなんとかしろ!」
「貴様……正気か? 今、貴様が何を言っているのかわかっているのか? そんな虫のいい話が道理としてまかりとおるとでも本気で思っているのか?」
「うるさい! それは、こっちの台詞だ! 今、この状況を見てみろ! このままいけば首都アルツールが危ない。貴様の身だって同じなんだぞ! こっちの判断は全員のためだ! お前のようなクズゴミウジ虫の自己保身に塗れた、我が身可愛さで判断しているわけじゃない。どうだ! 貴様のような超絶バカにもわかるように説明してやったよな? わかれば、さっさと賛成をーー」
「否決!」
!?
「よくそんなことが吐けるな! 本気で脳みそが腐っているのだとしか思えない。貴様のような自己中心クソ野郎に、そんなことを言われると猛烈に吐き気がする! そもそも、貴様の統治が最低の最低の最低の下の下の下だから、クーデターなんてものが起きたんだろうが! しかも、私のグライド将軍と兵たちを頼りにして、首都アルツールを防衛しておきながら、私の国の防衛には兵をまわさないなど、厚顔無恥の極み! 道理に反するも甚だしい! わかったか? わかったよな? わかっただろう!? さっさと賛成の票をーー」
「否決だ!」
「ふざけるな! なんで否決だ!?」
「通す訳ないだろ貴様の提案なんて! そっちこそ、さっさと賛成をしてーー」
「否決否決否決!」
「ふざけるな貴様!」
「貴様がふざけるな!」
「否決!」
「否決だ!」
「「「「「……」」」」」
罵詈雑言の否決ラリーが巡り廻る。そんな驚愕の光景を、諸王たちが固唾を飲んで見守っていた。
どうして、こんなことになってしまったのか。
この泥沼の争いをどう収めればよいのか、見当もつかない。
当然だが、道理はアウヌクラス王にある。目下、首都アルツールを防衛しているのもヤアロス国軍で、何よりもグライド将軍を常駐させている。その分、自国の守備に不安を覚えるのも、まあ、わかる。
だが、権限においては、シガー王に分がある。イリス連合国の盟主である彼は、諸王の中で唯一罷免協議権を持つ。そうなってくれば、アウヌクラス王がいくら喚こうが、最終決定権はシガー王にあると言っていい。
将来性においてはアウヌクラス王についた方が利がある。この戦が終われば、次期盟主の座は確実に入れ替わる。ここでシガー王についてしまえば、後々の盟主権限において諸王の座から排除される可能性だってある。
だが、足元の危機が迫っており、シガー王を無下にもできない。グライド将軍がいるとはいえ、8万の軍勢は強大な脅威だ。クゼアニア国の将軍は一線級ばかりだし、総合的に言えば安牌とも言い切れない。自身の安全を考慮するならば、シガー王に同調してアウヌクラス王を説得した方がいい。
だが……しかし……だが……しかし……
どうする。どうしよう。どうすればいい。
どちらにつけばいい。
どちらにつけば勝てるのか。
どちらにもつきたくない。
諸王の思惑が入り乱れ始める。状況は刻一刻と巡り廻る。狩る者と狩られる者がいったいどちらなのか。
結局、この日は何も決まらなかった。
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