特務隊 ラスベル(1)
*
その頃、ラスベルはロギアント城で訓練をしていた。新たに加入した元海賊のブジョノアとペルコックを副官に任命し、隊の連携を試す。
部隊の人数は千人に満たないが、それぞれ実力者を選りすぐっている。魔法使い。魔法は使えないが武芸のできるもの。あとは、ブジョノア、ペルコックの有能な部下たち。
ヘーゼンの命令では、ラスベルの部隊は特務隊だそうだ。通常の戦闘には参加せずに特殊な任務を請け負う部隊。
……とは、言われながらも特に指示はない。
『よい考えがあれば、許可を取らなくてもいいからやってみてくれ』と言われているが、あまりにも選択肢が多くて思い浮かばない。
そんな中で。
「姐さん! 終わりました!」
元海賊のブジュノアが報告に来る。
「そ、その呼び方はやめてもらえません?」
「いえ! 姐さんは姐さんですから!」
「……」
同じく元海賊のペルコックも、頑なに譲らない。
ブジョノアもペルコックも40歳を超えている。20歳にも満たない小娘に対し、『姐さん』呼びは、どう考えても違和感しかない。
彼らの一味を制圧した時は、素直に従うタイプの者じゃなかった。ヘーゼンはいったい、どんな手段で従わせたというのだろうか。
「一生ついていきます! なにがなんでも一生!」
「い、いや。そこまでは……任務が終わったら、
「……っ」
その時。
「はがっ……ぐっ……ぐぶぶぶぶっ」
「がぐっ、ごっ、ぐっ、あばぁ……あばぁああ!」
ガクガクガクと。禁断症状が出るかのように2人が震え出す。ヘーゼンの名前を仄めかすだけで、絶望と恐怖と悲哀が入り混じった表情を浮かべる。
「う、嘘。嘘嘘。功績をあげて役に立てば、もちろん次も同じ隊でやってもらうよう進言するから」
「死ぬほど役に立ちます!」
「いや、死んでも役に立ちます!」
「……」
いったい、ヘーゼンはなにをしたと言うのだろう。
とは言え、ゴクナ諸島の覇権を争っていた猛者だけあって、使える元海賊たちだ。イリス連合国の将軍には及ばないが、軍長以上の実力はある。
問題は、イリス連合国が広域的に戦線を広げた場合だ。今はダゴゼルガ城を単独で攻めて来ているが、時間が経てば経つほど軍備は増強され、至る所で戦闘が始まるだろう。
「……
次もまた、クゼアニア国の領土を狙うのは規定路線だろう。しかし、その間にイリス連合国から攻撃を受ける。防衛にも力を裂かねばいけないので、実質的に戦力は2分される。
そうなってくると、長期戦は不利だ。こちらの戦略として、一刻も早くクゼアニア国を落とす必要があるが、首都までは更に数城落とさなければ辿りつけない。
「姐さん姐さん」
そんな中、ペルコックが親しげに声をかけてくる。
「なに?」
「いい方法がありますぜ。ミナストレス運河を渡ればいいです」
「……それはそうだけど」
いかにも海賊らしい案だ。確かに、首都はミナストレス運河に面している。だが、当然配備されている海軍も強力だし、ある程度あちらも予想しているだろう。
そんな状態で向かえば針のむしろだ。
「ミナストレス運河は首都の手前で、数路小さく枝分かれします。そこの一つにボルサ村と言うのがあり、そこがあっしのシマなんです」
ペルコックは自信ありげに答える。その答えは、ラスベルも予想外だった。
「なんでイリス連合国にも販路があるの?」
「あっしらは交易もしてましたからね。ゴクナ諸島で奪ったものを買ってもらう金持ちが必要だったんで」
「……なるほど」
考えてみれば道理だ。近隣で奪ったものを、近隣で捌くのは難しい。盗品であれば、自ずと買うのも躊躇する。その点、イリス連合国であれば、足がつくリスクも少ない。
ボルサ村がペルコックのシマと言うのなら、一度に大量に運ぶのではなく、小まめに兵を送り込んでみたらどうだろうか。
「確認だけど、警備網は薄いのよね?」
「通門の衛兵には賄賂を握らせてます。ヤツら、あっしらと長い付き合いなんです。逆に長年癒着してきたんで、切っても切れない間柄ですぁ!」
「……うん」
これは、いけるかもしれない。
「よし。やってみる価値はありそうね」
ラスベルは、元気よく頷いた。
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