相談
*
ロギアント城。ヘーゼンの執務室で、その日もヤンは頭を悩ませていた。周辺勢力のゴクナ諸島、タラール族、さらにゴレイヌ国を加えた3つの関係性である。
ヘーゼンが掲げた構想は、ノクタール国を加えたこの4つで、帝国による干渉を完全に遮断するというものだ。
「とは言え、足並みを揃えるのがなぁ……」
ノクタール国、ゴレイヌ国は多額の防衛費を支払っているし、ゴクナ諸島のブジュノア、ペルコックもみかじめ料を支払っていた。一方で、タラール族は帝国とも敵対する姿勢を取っている。
問題はタラール族だ。周辺勢力に対し相当な乱暴を働いていたので、勢力間の境界線ではたびたびイザコザが起きているという。
「あー……うーっ……」
それでも、タラール族の同盟は外せない。彼らは強力な戦闘部族だからだ。だが、帝国が彼らを抱き込んだ状態で納得するか。いや、そもそも対等な同盟という条件を飲むほどのメリットを引き出せるのか。
「むーっ……」
帝国はスタンスがハッキリしている。敵対か服従である。ノクタール国は敵対を選択できない。イリス連合国と戦争行為をしている今、帝国からも敵対されることになれば、それこそ滅亡の憂き目に遭う。
そんな中、ヘーゼンは手紙を持って戻って来た。
「珍しいですね。
ヘーゼンは日々大量に
「ああ、プライベートな手紙だからな」
「誰からですか?」
「セグゥアと言う元同学院の将官だ。同期でね」
「へー、エマさん、カク・ズさん以外にも友達いたんですね」
「ん? 奴隷だが」
「同期の奴隷だった!?」
ヤンがいつも通り、ガビーンとする。
「あの頃は、魔法が弱かったから、奴隷にするのもなかなか大変でな」
「ど、ドン引きな思い出を懐かしげに語らないでくださいよ。なんで、そんなことできるんですか?」
「チーム同士での決闘を仕掛けさせ、セグゥアに属するメンバーに裏切らせた。所詮は学生だな。裏切りなどは想定してなかったらしい」
「方法を聞いてるんじゃないんですよ! あなたの倫理観を問うているのです!」
そして、その卑怯すぎるやり方も異常過ぎて怖い。
「そもそも、同級生を奴隷にしようなんて、かなりホラーですよ」
「ははっ。そんなこと言ったら、
「そうだったホラー過ぎる!?」
ヤンは再びガビーンとする。
「それで、なんて書いてあるんですか?」
「エマのことと、天空宮殿の近況だな」
「エマさんがどうかしたんですか?」
ヤンが身を乗り出して尋ねる。目下、エマという存在は少女の中で絶対的な良心だ。あんな女性になりたいという目標だと言ってもいい。そんな彼女に、何か悩みがあるのだろうか。
「クズな部下なことで悩んでるみたいだったから、排除させた。これで、元気になってくれればいいんだがな」
「励まし方が異常!?」
ヤンは三度ガビーンとする。
「
「そ、そうなのか。うーむ」
「……」
珍しく悩んでいるヘーゼン。一応、エマは大事な友達という括りらしく、相談された時は結構頭を悩ませたらしい(3分)。
すべてをコンマ秒速で即断する男にしては、真面目に悩んで、自身の状況とかを踏まえて真摯に回答したとのこと。
だが、出したのは圧倒的な物理的解決法。
ヤンはため息をついて、感情皆無男を諭す。
「ほら。悩んでたら話を聞いて欲しい時があるじゃないですか?」
「ない」
「誰かに話すことでストレスが解消されたりすることとか」
「ない」
「め、明確な答えじゃなくても、ただ黙って頷いてくれただけで胸の内がスーッとしたり」
「ない」
「
その前に、この男は本当に人間なのだろうか。ただの悪魔ではないだろうか。
「それよりも、実際の障害を取り除いた方が遥かに効率的で効果もあるように思うのだが」
「でも、エマさんだって助けを求めてる訳じゃないんだし、自分の力で解決したいんじゃないですか?」
「彼女は優秀だ。そんなクズに足を引っ張られるより、パッと解決して建設的な仕事に移った方がいいだろう」
「……ちなみに私が同じことを言った場合は?」
「『なぜ排除しない』と逆さ吊りにして問いかける?」
「私とエマさんでスタンスが違い過ぎる!?」
ヤンはやっぱりガビーンとする。
「彼女と君は性格が違うからな。必然的に対応も異なってくる」
「同じですよ」
「違う」
「同じですって。考え方も性格も」
「全然違う」
「わーん! 同じって言ってるのに!」
ヤンが泣きながらグルグルと手を動かすが、襟を掴まれてブラーンブラーンと吊るされる。エマを理想の女性として掲げているヤンにとっては、心外の限りだった。
「ところで帝国への同盟見直し案は? できたか?」
「ヒック……ヒック……一応、素案は」
これでいいのかどうか、悩めるところではあるが。
「でも、これだと成功するかどうか微妙ですよ」
「……いや、これでいい。ほぼイメージしていた通りのものだ」
「こ、これで締結まで持っていけます?」
「状況次第だろう。あとは、帝国との面着で交渉してみせるさ」
「はぁ……どうせ、やってのけるんでしょうね」
ヤンは大きくため息をついた。
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