葬列
*
葬儀当日。モナゴ地区はかつてないほどの賑わいを見せた。その理由は、敏腕領主であったマスレーヌにあった。彼の手腕で裕福になった民は多く、参列者が多かった。
そんな中、ゲスリッチ=ドーテという貴族が参列した。歳は70歳。下級貴族ではあるが、その中でも上から数えた方が早いほどの爵位である。マスレーヌとは幼馴染の間柄で、唯一無二の友でもあった。今回の訃報を聞いて、早馬で駆けつけた次第だ。
「……」
同い年の、しかも、親友とも呼べる間柄の者がいなくなってしまい、大きな喪失感を覚える。
参列者がごった返す中、葬儀場の規模に驚かされた。自分ほどの財力でも、ここまで盛大なものは開かないだろう。それを、下から2番目の爵位で執り行なうことができるなんて。
「立派だよ、マスレーヌ」
親友の功績を誇らしげにつぶやき、受付を済ませて中へと入った。
葬儀場内も豪華壮麗であった。参列している貴族もマスレーヌよりも格が高い者ばかりだ。しばらく会っていなかったが、充実した生活をしていたに違いないと、あらためて彼の死を偲ぶ。
そんなマスレーヌに寄り添いつつも挨拶しているのが喪主である妻だろう。今まで面識はなかったが、確か手紙で『若い妻を娶った』と自慢気に話していたな。
夫に先立たれた中、当主として、甲斐甲斐しくも、気丈に振る舞っている。『女性は強いな』と心から感心する一方で、なにか力になってやりたいとも思う。
ゲスリッチは、彼女に近づいて深々とお辞儀をする。
「このたびは、お悔やみ申し上げます」
「はい……ありがとうございます。申し遅れました。妻のヘレナと言います。あの、失礼ですが」
「ゲスリッチと言います」
「まあ、あなたが? 夫が言っておりました。唯一、親友と呼べる間柄であったと。とても、誠実な方で信頼における素晴らしい方だって」
「あいつがそんなことを」
素直に誇らしくもあり、同時に悲しくもある。
「困ったことがあれば、いつでも私を頼ってください。マスレーヌの忘れ形見に不憫な思いをさせる訳にはいかない」
「そのお言葉だけで……本当に嬉しく思います」
「……」
涙を溜めながら、潤んだ瞳でこちらを見てくる。気丈に振る舞っていても、この先ひとりで不安に違いない。先ほどの言葉通り、なにかあれば力になろうとゲスリッチは自身に誓った。
そんな中、1人の若い貴族が近づいてきて挨拶に来た。恐ろしいほど輪郭が端正に整っていて、鋭い目が特徴的だ。マスレーヌに息子はいないはずだが、近親者だろうか。
「お
「あっ、ヘーゼン。こちらは、ゲスリッチ様よ」
「あなたが!? ヘレナの息子、ヘーゼンと言います」
「初めまして」
そう答えると、黒髪の青年はギュッと手を握って柔和な笑顔を向ける。
「お
「いや、そんな……」
謙遜すると同時に、まさか、そんな風に義息子にも語っていたなんて驚いた。思えば、自分は家族に彼の話などしたことはなかった。
マスレーヌは、本当に自分を親友と思っていてくれたのだ。
これだけ自分のことを誇りに思ってくれる彼に対して、なんだか申し訳ない気持ちになった。
しかし、そんなことは気にせずに、ヘーゼンは嬉しそうに言葉を続ける。
「お若い頃の武勇伝聞いております。15歳の時に、
「……ははっ。いや、そんなお恥ずかしい」
頭をポリポリと書きながら、これは参ったなと恐縮する。
実際には、
しかも、大群でなく、3匹程度だ。
「あらためて会わせていただくと、本当に誠実なお人柄だ。私のお義父様も、あなたのような方を友に持てて幸せだったでしょう」
「それは、こちらも同じです。マスレーヌを友に持てて、本当によかった。彼こそ、私の誇りです」
「……ありがとうございます。あなたにそう言って頂けて、主人も嬉しいと思います」
ヘレナが横で、ますます瞳を潤ませて、こちらを見てくる。
「義母さんは、本当に涙脆いな。そんなことじゃ、義父さんも安心して天国にいけないよ」
ヘーゼンが心配そうに肩をポンポンと叩く。
「……そうね。私ったら、本当に至らない妻で」
「そんな……私はあなたのような素晴らしい伴侶に出会えていたことに、軽い嫉妬を覚えますよ」
「まあ」
彼女はそう言って、おどけたように笑う。そんな仕草を好意的に思った。
しかし、若いとは聞いていたが。自身の半分にも満たないほどの歳の女を娶るなんて。そんな感想をゲスリッチは抱く。
「あの、このたびは……」
「あっと、では失礼します」
次の参列者に声をかけられて、ヘレナが慌ててお辞儀をして振り返った。
その時。
フワっと香る妖艶な香り。
「……っ」
ピタッとしたドレス越しのシルエットから垣間見える熟れた尻が、どうにも気になった。
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