説得(2)


 クレリックの、あまりにも冷たく、ぞんざいな物言いに、ダゴルは唖然とした。こいつ。最初から従う気どころか、刃向かう気満々でいやがる。


 目に見えてわかる。この男、もはや、その不快感を隠そうとせずに、チッチッと舌打ちを鳴らしながら尋ねてくる。


「だいたい、なぜ、あんな悪名高いヤツらを我が内政部に入れたのですか?」 

「そ、それは……」

「まあ、おおよその理由はわかってますがね。彼があの方のお気に召さなかったのでしょう? 器量の狭いあの方なら考えそうなことだ」

「く、口を控えろ!」

「大方、裏であなたに指示していたのは、あの方でしょう? あんな恥知らずな2人を呼び、優秀なヘーゼン内政官を降格させた代償は受けるべきかと思いますが」

「……っ」


 異論・反論の余地ないくらいに詰めてくる。名前は出していないが、明らかにビガーヌル領主代行を指している。


 確かに、最近は不満を示すクレリックを無視し続け、次長補佐官のビドルにばかり指示していた。それを、こんな形でやり返されるなんて。


 そんな中、ビドルがオズオズと手を挙げる。


「……あ、あのぅ、名目上は寄付という形でお願いしてみては?」

「そ、それだ! さすがは、ビドル次長補佐官」


 この男は、2人とは違い従順で気が弱い。調整役は苦手だが、知識が豊富で、どちらかと言うと引きこもり型の仕事人気質だ。


 この男なら、丸め込められる。


「ビドル。ビードール君。さすがだよ、君は。どこかの誰かさんと違って、個別具体的、そして建設的な提案をするなんて。それは、いい考えだな」


 ダゴルは彼の両腕を強くにぎりながら熱く語る。


「誰がそのお願いをするのです?」

「……っ」


 クレリックの声は、やはり、氷のように冷たい。


「別に貴様には頼まない! ビドル次長補佐官、やってくれるか?」

「え……モルドド上級内政官、やれる……かな?」

「いや、できないでしょう」

「……っ」


 キッパリと言い切られ、ダゴルは狼狽する。


「やる前からできないとか言うな若造!」

「ヘーゼン内政官は、道理に合わない命令は従わない性格です。まず、寄付などには応じないでしょう」

「そ、それをなんとかするのが貴様らの仕事だろうが!?」

「なら、ダゴル長官はできるんですか?」

「……っ」

「モルドド内政官が言うように、私も無理だと思いますよ?」


 クレリックもまた、冷たい声で応戦してきた。この2人、完全に結託して職務を放棄しようとしている。


 ダゴルは早々に見切りをつけ、ビドルの両肩をグッと掴む。


「……おい、ビドル! こんなヤツでは役に立たない! お前が直接やれ」

「えっ……っと、はい。いや、しかし、その」


 ビドルは、ゴモゴモと口ごもる。


「無理なら、無理って言った方がいいぞ? どうせ、できなかったら全ての責任を背負わされるに決まっている」

「……っ」


 こいつ、上官に向かって。頭に血が上ったダゴルは、胸ぐらを掴んで叫ぶ。


「クレリック! 貴様、なんだ先ほどからその態度は!?」

「なら、言わしてもらいますがね。ダゴル長官も無茶苦茶ですよ。最初は、ヘーゼン内政官の献策が優秀だとあれだけ喜んでたのに、最近は、他ならぬあなたが否決しだして」

「……ひっ」


 クレリックはかなりの大男だ。さすがに、恫喝まではされないが、見下ろされる形になり、ダゴルはビビる。


「や、やむにやまれぬ事情があってだな」

「あの方がどれだけ不機嫌になったとしても、あなたはあなたの意志を曲げるべきではなかった。内政官として、正しいと思う行動をすればよかったのです」

「ぐっ……もういい! ビドル、行くぞ!?」


 ダゴルは、背を向けて歩き出す。


「えっ、はい……いえ、その」

「ビドル。行かなくていい」

「ビドル、貴様っ! クレリックは次長、私は長官だぞ!?」

「あっ、いえ……その、はい」

「ビドル、もし成功すれば昇進だ。そこのボンクラの代わりに、次長の座が手に入るぞ?」

「ビドル、できなかったら、全部お前のせいにされるぞ? よく考えろ」

「……」

「ビドル次期次長。君には期待しているんだ」

「ビドル、やめとけ」

「……っ」

「ビドルくぅーん」

「ビドル」

「……うっ」

「ビドォール! お前、わかってるだろうなぁ?」

「ビドル」

「……わかりました」


 意を決したように、ビドルは頷く。


「お、おお。さすが、ビドル次期次長! わかってくれたか」
















「お断りします!」

「……っ」

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