紹介
翌日の朝。内政長官のダゴルは、全ての内政官を大フロアに呼び出した。もちろん、ビガーヌルも最後尾で見学している。
「君たちに紹介する。バドダッダ上級内政補佐官の後任、ギモイナ内政官だ」
「はい」
返事をしたのは、二重が印象的な中年だった。中性的な顔立ちだが、うっすらと顎周りに髭が生えている。剃ってはいるが、髭が濃くすぐに生えてしまうのだろう。
「あー、このたび上級内政補佐官を拝命しましたギモイナです。皆様の足を引っ張らないよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
ネットリとした声で、丁寧にお辞儀をする。
コホン、と1つ咳払いを入れて、ダゴルは続けて口を開く。
「次に、降格人事を言い渡す。ヘーゼン内政官」
「はい」
「君は下級内政官に降格だ」
そう言った時、にわかに周囲がザワついた。特に、秘書官のジルモンドや部下たちが驚愕の表情を浮かべている。
しかし、ヘーゼン自身の表情はまったく変わらなかった。
「了解しました」
「……異論などはあるか?」
「ありません」
キッパリと言い切ると、明らかに不満気な表情を浮かべていたジルモンドがグッと堪えるような表情を見せた。
「……君ねぇ!」
拍子抜けしたのか、それともビガーヌルへのパフォーマンスなのか、ダゴルはヘーゼンに向かって言葉を畳み掛ける。
「自身でわかっているならば、それをやれと言う話だが。非常に残念だよ、ヘーゼン内政官。君には期待していたのだが」
「はい」
「君は非常に自尊心が高く、野心家だ。内政官と言うのは、そのような感情を越えてフラットで物事に当たらなければならない」
「はい」
「……言えることは、『はい』だけか?」
「いいえ」
「ふてくされているのか? 人の話は、キチンと聞きなさい。これは、君の成長のためなんだから」
「はい」
「……」
激昂することも悲哀にくれることもなく、あくまで淡々と返事を繰り返すヘーゼンに、ビガーヌルは不満気な表情を見せる。
ダゴルは少々焦った表情を浮かべながら、咳払いを数回する。
「ご、ゴホ、ゴホン。君には言っても、まったく響かないようだな。まあ、少し頭を冷やして、地道に粛々と内政業務を、こなすといい」
「はい」
「……では、君の後釜となる後任の中級内政官を紹介する。バライロ中級内政官」
「はい!」
返事をしたのは、内政官らしからぬガッチリとした体格の大男だった。まるで、軍人のようにしっかりと背筋を伸ばして快活でハッキリとした声で語りかける。
「このたび、中級内政官を拝命したバライロです! 私はそこの男のように甘くはない! ビシビシと君たちを鍛えるつもりだから、よろしく頼む!」
ヘーゼンに視線を向けて、大男は堂々と宣言した。そんな中、元部下の1人、ビターンがヒソヒソと隣に耳打ちをした。すると、すぐさまバライロが反応して大声をあげる。
「おい! そこのお前! ちょっと、来い!」
「わ、私ですか?」
「そうだ! 早くしろ!」
呼び出されたビダーンは、急いでバライロの前に駆け寄ると、頬に鉄拳を喰らう。瞬間、鮮血が飛び散り、大きな打撃音がフロアに木霊する。
「ぐっ……」
「私語厳禁など当たり前だろうが!」
「そ、それは申し訳ないですが、いきなり殴らなくても」
「黙れ!」
そう怒鳴り。バライロはもう一発鉄拳を喰らわす。
「私は上官だ。異論・反論は聞かない!」
「……ひっ」
「わかったかと聞いているんだ!?」
「わ、わかりました!」
「……よろしい」
バライロは爽やかな笑みを浮かべる。
「このように! 私は、君たちに厳しい指導をする! しかし! これは、言わば愛の鞭だ! 君たちの成長を思えばこそ、私は心を鬼にして自らの心を痛めながら指導する! それが、私のやり方だ! 以上!」
「……ククッ」
静まり返ったフロアに、ビガーヌルの乾いた笑みが響く。
「では、辞令は終わりだ。みんな、仕事に戻ってくれ。ヘーゼン内政官は、中級内政官の部屋から自分の荷物を撤去しておきなさい。今日中だぞ?」
「はい」
ヘーゼンは、やはり、淡々とした表情で返事をし、速やかに退出した。
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