停滞
ヘーゼンとヤンはその足で城へと帰り、秘書官のジルモンドと合流した。
「モルドド上級内政官との面会を予約してくれ」
「わかりました」
それから、執務室で仕事をしていると、すぐにジルモンドが帰ってきた。
「すぐにお会いになるようです」
「早いな、わかった」
ヘーゼンはすぐに席を立ちヤンを連れてモルドドの部屋まで来た。
「失礼します」
「ああ、よく来てくれた……その子は?」
「ヤンと言います。私設秘書官として雇ってます」
「……なるほど。その子が聖女ミーミャか」
「耳が早いですね」
「有能な部下のお陰だ。なあ、クルリオ秘書官」
「知りません」
彼女は、プイッと少し照れくさそうにそっぽを向く。なるほど、女性の扱いも上手のようだとヘーゼンは感心する。「どこかの誰かさんとは大違い」とつぶやく黒髪少女は、満面な笑顔でモルドドにお辞儀をする。
「ヤンと言います。よろしくお願いします」
「おお……なんか、あったかな」
モルドドは突如として立ち上がって、机の中をまさぐり出す。やがて、何かを見つけ、嬉しそうに持ってくる。
「ほーら。お菓子だよー」
「あ、ありがとうございます」
「モルドド内政官。ヤンは、ただの子どもじゃありません。精神年齢は少し子どもで、どうしようもなく青ったるいところはありますが、有能さは群を抜いてます。どうぞ、子ども扱い為されぬよう」
「あ、青ったるい!? 言うにこと欠いて」
「事実だ」
「事実って、まあまあ言っちゃいけないことがあると思うんですけど!?」
「……」
そんな2人のやり取りを、ポカンとしながら眺める。そんな視線に気づいたヘーゼンはヤンの頭をグリグリとする。
「モルドド内政官。こんな口の減らない秘書官ですが、使えるヤツです。どうぞ、甘やかしたりせぬようお願いします」
「モルドド内政官。
「仕事ができればいいんだよ。仕事やるんだから」
「そんなとこですよ! あなたが嫌われている理由は」
「好き嫌いという価値観で仕事をしてなから、別に僕は気にしないが」
「キー! 周囲が気にしまくってんですよ!」
といつも通り、ヤンが拳をグルグルと振り回し、ヘーゼンがその頭を押さえて防ぐ。すると、急にモルドドが大声で笑い出した。
「はっはっはっ……なるほど、あくまで対等な師弟関係と言うことだね? ヘーゼン内政官とそこまでやり合うなんて恐れ入ったよ」
「申し訳ありません。お見苦しいところを」
「いや。本当を言うと、君が人間かどうかすら疑っていたんだ。少し安心した」
「……本題を。2つの献策は通りましたか?」
そう言うと、モルドド内政官は急に真顔になる。
「いや。それが、少し挙動がおかしくてな」
「と言いますと?」
「ダゴル内政長官までは順調に決裁を終えた。財務部は先日の件で口は出せないだろうしな。その後は、領主代行のビガーヌル様まで書類は渡ったはずなんだが」
「……そこからがなくなった、と」
「ビガーヌル領主代行官の判断は速い。イエスかノーか、即日で返されるケースが多い。ここまで刺激の強い献策だから何かしら反応があるのかと思っていたが」
「……どのような方なんですか?」
「優秀な方だよ。もちろん、根回しなども抜かりはない。非常にキッチリとした方だ。ただ……私との考えは少し合わないがな」
モルドドは言葉を選びながら答える。
「どのような考えをお持ちで?」
「……帝国の利益を最優先に考える方だ」
「それならば、大きくは違わないと思いますが」
「スタンスの違いというのか……」
なんとも言いにくそうに答える。
「わかりました。ただ、もう1週間待って、音沙汰がなかったらビガーヌル代行官とお話しする機会を作っていただきたいです」
「はぁ……私でさえ数度しか会ったことがないのに。しかし、仕方がないな」
モルドドはため息をつきながら頷いた。
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