捜索


「はっ……はぐっ……ま、待てぇ」


 か細い声を出すゴズエルを振り切って、ヘーゼンは彼の部屋へと向かう。


 到着してノブを回すが、回らない。間もなく、ジルモンドが息を切らしながらゴズエルの秘書官を連れてきた。そして、後ろにはヘーゼンの部下であるビターンとダズロもついてきていた。


「手が足りないので連れてきました」

「機転が利くな。2人はゴズエル財務官の秘書官をここに、連れてきてくれ。ジルモンド、君はここで一緒に資料を探せ」

「わ、わかりました」


 部下のビターンとダズロは、弾かれたように散って行く。そして、ヘーゼンは視線を不安げな男の方に向ける。


「で、秘書官の君。鍵は持っているか?」

「あ、ありますが」

「あ、開けるな! 絶対に」

「ふん……ガナスッド財務次官だ。私が上官権限で許可する」

「は、はい……」

「がぶうっ」


 上官権限を上官権限で封じられたゴズエルは、訳の分からない擬音を吐き出す。


 扉を開けて。ヘーゼンはすぐには探さず、微動だにしない。


「どうした?」

「ガナスッド財務次官。ゴズエル財務官に部屋を見せてください」

「ふん……失礼なやつだ。人使いも荒い。ゴズエル、来い」

「ひっ……はひぃ……」


 耳を掴まれて引きずられるゴズエルは、強引に中へと入れられる。そして、数秒の間があり。ヘーゼンが突如としてある箇所を指さす。


「そこ。ジルモンド、探してみてくれ」

「なっ……貴様っ」


 ゴズエルが顎が外れるほどの驚きの表情を見せる。


「こんなことに費やす時間が惜しい。可能性の高いところから探す。ジルモンドは、ゴズエル財務官が最初に追った視線の方向。私は最後まで合わなかった視線の方向を探す。上官のお2人は、それぞれ私たちの動きに不正がないかを監視してください」

「ふん……周到過ぎて、その行動自体が怪しいが。わかった。少しでも怪しい行動をすれば即刻中止だ」


 ガナスッドは、ますます面白くなさそうな表情を浮かべ、モルドドは思わず笑いを吹き出しそうになりながら眺める。


 数分後、ジルモンドが歓喜の声をあげる。


「あ、ありました! 廃棄予定の洋皮紙の中から、何度か書き直しをした紙が」


 そう言うと、ガナスッドは面白くなさそうにつぶやく。


「ふん……ゴズエル財務官。見下げ果てたやつだな。上官の威を借って、他部署の者を脅そうなどと。しかも、善行を施した者に向かって……おい、貴様。聞いてるのか!?」

「……やめろ」


 ガナスッドの言葉に耳を貸さずに。ゴズエルはもはや紫色になった表情を浮かべて、ある一方に向かってつぶやく。


 視線の先にいたヘーゼンは、ジルモンドの声に反応することもなく、淡々と高速で書類を選別して並び立てている。


 やがて、ゴズエルがヘーゼンの肩に手を掴む。


「やめろやめろやめろやめろ! そこは、関係ないだろう? 貴様の秘書官が証拠を見つけたんだ。私が悪かった。認める」

「……」

「私が悪かったと言っているんだ。取り消す、苦情はすぐに取り消す。金も払う。いくらだ、いくら欲しい? 言い値の額を賠償する」

「……」


 すがるような声に耳を貸すこともなく。ヘーゼンは書類を高速で選別して、次々と机の上に置いて行く。


「頼む……頼む頼む頼む……頼むぅ」


 あまりのゴズエルの慌て様に、ガナスッドもモルドドも呆気に取られている。しかし、それでもヘーゼンは耳を貸すことなく、淡々と書類を選別して行く。


「と、止めてくださいぃ……誰かぁ……あ、あいつをぉ……あいつぉ……」

「ふん……ヘーゼン=ハイム。貴様、なにをやっている?」


 ガナスッドがヘーゼンに向かって尋ねると、ちょうど選別を終えた書類を笑顔で手渡す。


「はぁぅぁ……やっ、やめろぉ」


 泣きそうな表情を浮かべるゴズエルを、完全に無視して、ガナスッドはますます面白くなさそうな表情を浮かべる。


「……ヘーゼン=ハイム。これは、まさか」


















「ええ。奴隷ビジネスの証拠です」

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