岐阜城と花火

小説初心者

第1話岐阜城と花火

 恐らく、岐阜市民で有れば一度は犯された夢想と云うものがある。


 かの名城「岐阜城」と「花火」との組合である。


 岐阜城の臨する「金華山」という山は、すっかりと栄えた岐阜の街並みに、

 慈悲の様に残されている。

 その山は別名「一石山」と云う位だから、

 無骨な岩山に、ツブラジイを釘植してやれば大方の説明は付く。

 無論、ツブラジイの目立つ山肌であるから、

 岐阜市民には殆ど秋以外に感動される事も無い。

 そして、それは頂点の「岐阜城」にも同じであって、

 とりわけ眼鏡の多い現代っ子には、

 お山に座る「岐阜城」などは、少しも面白くないだろう。


 しかし、岐阜のお山「金華山」には、

 夏になると「金華」より、よっぽど良い化粧を帯びる一夜が有った。

「長良川花火大会」での一夜である。


 大会の夜になると、長良川を跨ぐ「長良川大橋」は、毎年の様に人ごみで流れを悪くする。

 あの混乱に一度でも組みした者は、誰も嫌気が差す程度だが、

 毎度、毎度、その夜になると、橋上は恐ろしい程の人間を連絡している。

 そして、その連絡を吸い取ろうと、街のあちらこちらには、屋台や露店が立ち並ぶ。

 それらの景気は、男女の色や家庭の色を帯びながら、街灯に濡れていた。

 そうした景色は、立派に岐阜の風物である。


 そんな風情の夜に、不意に一輪の花が咲いた。

 夜空に、初発が昇り爆ぜたのだ。

 しかし、「長良川花火大会」というのは、祭り色の強い大会であるから、

 一番咲の後には、運命じみて、

 事件を見出した者と見逃した者との感動が、街のいたるところで混在する。

 街は混沌に染まり出す。

 そして、その混沌を治める為か、夜空には、二発目、三発目と、

 くす玉が続々と、風のように鳴きながら昇って行く。

 そして、それを見聞するものは、皆一様にくす玉の鳴声に心躍らせ、

 その音が、とうとう烈音に変わる時には、皆、感嘆と声を溢す。

 街並みは、ドップリと歓喜に溺れる。


 しかし、そうした感動も、花火が溶けた頃になるとすっかり凪いでしまって、

 彼らの幾人かは、

 花火の生きていた夜空が、幽かに白く煙っているのを発見した。

 すると、彼らは皆、その風情に侵されアイロニー感じた。

 そして彼らは、その弁じ難い感覚を胸の内に包容した。


 やがて、全ての玉を撃ち終えると、大会はすっかりと祭りになってしまい、

 花火の風情を失って、祭りの経済に置き換わってしまう。

 しかし、その経済に組みする者の内には、少なだが、確かに花火を残していた。

 そして彼らは皆思う。

「もう少し、孤独に花火を楽しんでみたい。」と。


 そして、彼らは閃いた。

「岐阜城。」「天守閣。」「天守閣と花火。」

 そして、彼らは夢想し出す。


「花火の続々と揚る長良川方面の空を、

 宵の中、天守閣の囲いに股を通し、

 花火の快音に相う様に、

 夜闇に足を蹴り振りながら、

 一人孤独に見ていたい。」

 と。




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