冬休み
*
「なあ、お前って冬休み何する?」
「えっ……なに、突然。なによ?」
「いや、俺。ちょっと暇だなーと思って」
「や、やーだ。私も暇だって思ってる訳?」
「暇だろ? ちょうど、観劇のチケットが余ってて」
「ひ、暇っちゃ暇だけど……しょ、しょーがないなー。誰もいないんだったら付き合ってあげよっかな」
「誰もいないってお前決めつけんなよ」
「……じゃ、誰でもいい訳じゃないの?」
「そ、それは……」
*
サンドバルは、自身の冬休みの思い出を回想していた。青春の学生時代の一幕だ。これでも、奴隷ギルド商に堕ちる前は、平民として人並みの生活を謳歌していた。
にわかには信じられないが、目の前のヘーゼンという悪魔も学生であると言う。普通なら生徒同士で旅行に行ったり、そんな感じの過ごし方のはずだ。
だが、ヘーゼンはまるで小旅行にでも行くかのように、奴隷ギルドへと向かい、サンドバルを先導する。構成員を捕まえ、奴隷にするための、小旅行。
あまりにも『冬休み』の認識が違いすぎる。
「おい、どうした? ボーッとするな」
「……っ」
たどり着いたのは、サンドバルの所属している奴隷ギルドだった。2人は彼らから見えないように物陰へと隠れる。当然だが、警備は厳重。帝国軍の中隊程度ならば真正面から渡り合えるほどの規模である。
しかし、ヘーゼンはまったく動じずに作戦の説明を始める。
「まず、お前がおびき寄せて、僕がこの魔杖『牙影』で捕まえるから。その後は、一人一人、奴隷にして行く。基本的には生け捕りで」
「そ、そんなに簡単にいきますかね?」
「最初の一人は調教に時間がかかるだろうが、あとは余裕だと思うな。縛って、複数人がかりで囲んで、痛めつければ、大概の者は諦める」
「……っ」
奴隷ギルドのやり方。
奴隷ギルドのやり方で、奴隷ギルドを壊滅させようとしている。
「ついでに奴隷たちも解放すれば、いい戦力にもなるだろう。奪った金で、彼らを故郷に帰すのは大前提として、度重なる恨みもあるだろうし」
「あ、あの……目的は?」
「魔杖の実践練習。あとは、金かな。宝珠を買うのにある程度金がかかるから、捕まえたクズで、奴隷ギルドでも運営しようかと思って」
「……っ」
こいつ。乗っ取ろうと思っていやがる。
「一応、僕は帝国将官を狙ってるから、卒業までには売らないといけないけどな。自分の領地ができたら、また考えるけど」
そう言いながらヘーゼンは、警護から死角になっている場所でサンドバルに指示を出す。
「とりあえず、お前の部下が一人ずつ呼び出せ。従順なヤツから一人ずつ」
「は、はい」
サンドバルは言う通り、門番に部下の一人を呼び出させた。数分後、息をきらしながらゴラヌという部下が走ってきた。
「ど、どうしました……うわっ!」
死角からヘーゼンが
「な、なんだお前は!?」
「
ニッコリ。
「……っ」
嫌だ。嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「うっ……うわあああああっ!」
「ちょ、サンドバ……ぐわああああああああっ!」
2時間後、奴隷が増えた。
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