開戦
3日後。ヘーゼン、エマ、カク・ズの3人は、決闘場所へと到着した。森の奥深くのにある、小さな草原だった。50メートル四方ほどの場所で、周囲は木々に覆われている。
そこには、セグゥアとその取り巻き、教師のバレリア、そして、観客たちが待機していた。
「遅かったな」
「通告されたのが、つい、さっきだったからな」
「……」
ヘーゼンが淡々と答える中、セグゥアがマグラットの方を見る。
「ヘヘ……時間も場所も、こちらで決めていいって話だ。決闘違反は犯してないぜ」
「と、言うことらしいが? すまないね、色々と気を遣ってくれる友達がいるらしい」
「別に、構わないよ」
「……」
落ち着いた様子でヘーゼンは答える。そんな様子を余裕の表情で眺めながら、セグゥアは思わずほくそ笑む。
その時、教師のバレリアは、草原の中心に立ち、観客にも聞こえるような大声で叫ぶ。
「では、勝負を始めようか? では、ペナルティとルールの確認を」
「はい。僕の提示するペナルティは『敗者が勝者の一生奴隷となること』です。一応、紙にも記載したので、確認してもらえると」
ヘーゼンはそう言って、バレリアとセグゥアに手渡す。
「……繰り返しになるが、取り消すつもりは?」
「ありません」
「そうか。わかった。セグゥア君、ルールを発表してくれ」
「はい。しかし、俺はあくまで公平にやりたいんでね。ルールは、まだ聞いてないんです」
「ほぉ」
「マドリッド、頼む」
「ヘヘ……了解」
取り巻きの1人であるマドリッドが、洋皮紙を取り出して読む。
「ルールは集団戦。3対3の戦いだ。勝利方法は戦闘での勝利。チームメンバーの内、誰か1人でも降参させれば勝ちだ。範囲は、ここでも森の中でもいい」
「……集団戦か」
ヘーゼンはボソッとつぶやく。
「不満か?」
「構わない。僕が選ぶメンバーはエマとカク・ズだ」
「クク……いつも通り、仲良し好しで羨ましいね。マドリッド、こちらは?」
「ウラジールとヒキョウナだ」
彼らはクラスでトップ3と呼び声高い。エマも優秀だが、あまり戦闘は得意でない印象だ。そして、カク・ズのようなノロマも連れている。これだけでも、必ず勝てる布陣だが、念には念を入れて、あらゆる罠を用意している。
しかし、ヘーゼンは動じずに答える。
「なるほどね。わかった」
「……では、互いに異論はないな」
「ありません」
「こちらも、ありません」
2人がそう答えると、バレリアがコホンと咳払いを入れる。
「君たちは、この決闘が初めてだから、念押ししておこう。互いに結んだルールについて、破れば即敗北となる。逆に言えば、これら以外のルールは全て不問になるということだ」
「構いません」
「クク……俺たちもです」
「……では、決まりだな」
「えー……なんか、卑怯じゃない?」「事前連絡なかったんだよね?」「ルール決めたの、セグゥア君と同じグループの子よね? いくらでも知れるよね」「いや、それどころか、罠だって張り放題じゃん」「本当に、セグゥア君知らなかったのかな? ちょっと信じられないんだけど」
観客たちがザワつく中、マードック大声を張り上げる。
「うるせぇな、卑怯だのなんだの!? ヤジ馬はすっこん出ろよ! 勝負ってのは、なんでもアリだろう! 不満だったら、あっちがそう言うルールにすればよかったじゃねぇか!」
「「「「……」」」」
観客は、一斉に、その場で黙った。
「ああ、彼の言う通りだ。僕も異存はないし、全然構わないよ」
「さっすが、ヘーゼン君。かっちょい――――!」
マドリッドは皮肉めいた笑みを浮かべて叫ぶ。
バレリアは、またしても咳払いをして、参加者の面々に向かって叫ぶ。
「では、宣誓をしてもらう。『我々は互いに決めたルールに従い決闘を行う。敗者は全てを受け入れ、勝者は全てを得るだろう』
「「「「「「我々は互いに決めたルールに従い決闘を行う。敗者は全てを受け入れ、勝者は全てを得るだろう」」」」」」
6人全員がそう宣言して、立ち位置につく。そんな中、セグゥアがヘーゼンの近くに寄る。
「残念だが、お前たちの勝利は万が一……いや、億が一も、ない」
カク・ズを入れた時点で、ヘーゼン側の敗北は決まっていると確信した。
セグゥアたちの作戦は、一斉にカク・ズを狙うこと。驚かせて森へと追い込む。そして、そこには、数多くの罠が張ってあり、大怪我は必至。最悪、死んでしまっても、ルール上では合法なので生徒が責任を負うことはない。
逆に、ヘーゼン、エマが攻撃を仕掛けたとしても防戦して森へと逃げ込めば、罠で身動きが取れなくなる。そこで、膠着状態になればこっちのものだ。
「……」
「……色々と考えてきてたと思うが、無駄だったな。一生奴隷は辛いだろう? せいぜい可愛がってやるから、覚悟しておけ」
「……」
「地獄に落ちろ」
「……」
「では、勝負、初め!」
バレリアのかけ声が響いた。
「降参です」
「俺もー。降参」
「……えっ?」
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