特訓


 朝食後に3人は、対セグゥア戦に備えて特訓を実施した。


「さぁ、ヘーゼン! 私とカク・ズが徹底的に鍛えてあげるから、覚悟しといて」

「ギシシッ……俺も本気でやるからな!」

「いや、そうじゃくて」

「えっ?」

「えっ?」


          ・・・


 数時間後、エマとカク・ズは地べたへと倒れ込んだ。


「はぁ……はぁ……なんで……私たちが……鍛えられるわけ!?」


 ミディアムヘアの美少女は息切れしながら、そして、半ギレしながら睨む。


「集団戦もあり得るからな。手伝ってくれるのだろう?」

「ぜぇ……ぜぇ……て、手伝うけど! この特訓、どう考えても私たち主体じゃない!? そもそも、朝の自主練でヘトヘトで――」

「ありがとう。そんな中、手伝ってくれるんだよね?」

「……っ」


 駄目だ。言っていることがわからなさすぎる、とエマが思う。


「じゃあ、続きをやろうか。相手は、戦いが慣れていない君たちを一斉に狙うかもしれないから、そうした時の対処法について覚えよう」

「で、でも、集団戦じゃない可能性の方が多いんじゃない? それなら、1対1での戦いに備えた方がいいんじゃない?」

「個別戦でのシミュレーションはすでに数千通りを想定して終わらせている」

「怖っ!?」


 にわかには信難いが、こいつならやりかねないとも思い、エマは微妙な表情を浮かべる。


「特にエマ。君は戦うということ自体に苦手意識を持っている。魔法使いとしては優秀なのだから、少し慣れればやれるはずだ」

「でも……人を傷つけるのは苦手だな」


 自信なさげに答えると、ヘーゼンはジッとエマの瞳を見つめる。


「……そうだな。みんな君みたいな人であれば、戦争は起きないのかもしれないな」

「……」

「でも、現実は違う」


 ヘーゼンはキッパリと言い切った。


「武装を放棄して平和を謳えば、直ちに攻め込まれ、自尊心は奪われ、迫害され、殺される」

「……」

「そして、僕らが目指す帝国将官という職業は、その中心。戦地のど真ん中に派遣されうる可能性もある過酷な場所だ」

「……」

「人を守る覚悟というのは、人を傷つける覚悟……そして、殺す覚悟でもある。どのように取り繕ったって、戦うということはそう言うことだ」

「私に……できるかな?」


 ハッキリ言って、自信がない。ずっと、争いごとを避けて生きてきた。でも、家の跡取りとして、避けられない道であるとも思っている。


「わからない。だが、守られているだけでは、なにも変えることができない。それは、君にもわかっているのだろう?」

「……うん」

「もちろん、君がどういう道を選ぶのかについては、自由だ。僕はどんな選択であれ、君の意見を尊重する。ただ、将官を目指すという選択肢の中に戦うというものがあるのなら、挑戦してみて欲しい。学院で学ぶことは、きっと、そういう事だと思う」

「……うん、わかった」


 エマはしっかりと頷いた。


「では、続きをやろう。カク・ズは相性のよい、土魔法を主体の構成で行こう。防御系の魔法に磨きをかけて、僕らを守る肉壁……じゃなくて、騎士として役に立って欲しい」

「凄い間違え方!?」

「ははっ」

「わ、笑い事じゃないのよ」


 エマがため息をつく。


「ギシッ……ギシシシシ……」

「はぁ……なんで、カク・ズも笑う訳?」

「なんか、こう言うの、面白いなって」

「……」

「俺、子どもの頃からこんな体型で、ずっと周りから怖がられていたから……こう言うの、凄く楽しいんだ」

「……」

「……はぁ。そんな悠長な」

「クク……」


 そんな中、黒髪の少年が突然笑い出す。


「ど、どうしたのヘーゼンまで!?」

「いや、懐かしいなと思って」

「懐……しい?」


 エマは怪訝な表情を浮かべる。


「ああ。昔の友達のことを少し思い出していた。君たちと彼らはタイプも全然違う。でも……なんでかな……懐かしいって思ったんだ」

「……」

「さっ、休憩は終わりだ。時間は待ってくれない。完全なる勝利のために、徹底的にやるからね」


 そう宣言をして、ヘーゼンは魔杖を掲げた。




 



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