決闘(2)
ヘーゼンが発した瞬間。全員の息が止まった。あれだけ盛り上がっていたにもかかわらず、恐ろしいほどの静寂。
「えっ……と。悪い、ちょっと、聞こえなかった。もう1回言ってくれるかな?」
対決者のセグゥアですら、理解が飲み込めず、再び聞き返す。
「勝った方が負けた方を生涯奴隷にできる。一応、定義しておくと、奴隷は主人の命令には、絶対服従。生殺与奪及び、すべての行動権を主人が支配するということだ」
「……っ」
「当然だが、契約魔法は結ばせる。約束を反故にされたらかなわないからな」
「……はっ……くっ」
幻聴ではなかった。
むしろ、生易しい奴隷じゃなく、奴隷中の奴隷。
「そ、そんなもの認められる訳がないだろう!?」
バレリアが焦って叫ぶ。さすがに、止めざるを得なかった。対決が見たいとは言え、これほどのペナルティは学生のレベルを遙かに超越している。
しかし、ヘーゼンは首を振ってその意見を斬り捨てる。
「条件の取り交わしは既に終わってます。ここにいる全員が証人であるにも関わらず、教師のあなたが先人たちの培った、実力主義の伝統を否定するのですか?」
「……っ」
彼女は開いた口が塞がらない。魔杖工のダーファンが常々『異常だ』と言っていた。彼女自身、その実力を垣間見て、特別な生徒だとは思っていた。
しかし、その想像を遥かに越えて、この男は危険だ。
「お前、正気か?」
さすがのセグゥアも、冷静になって聞き返す。
「もちろん。土下座などされたって、僕にとって、なんのメリットもない。君は、そこそこ優秀な魔法使いなので、奴隷としてならいい仕事をすると思うんだ」
「ふざけるな!」
反射的に、セグゥアが胸ぐらを掴んですごむ。しかし、怯むことなど毛頭なく、ヘーゼンは鋭い瞳で見下ろす。
「勝負かい? それとも、勝負前に僕を痛めつけようとしているか? どちらでも、僕はかまわない」
「……っ」
その圧倒的な威圧に。思わず寒気を感じたセグゥアは、反射的に手を離した。
「ど、どんな条件でもいいと言ったな? では、ヘーゼン。君だけ、指一本で戦えと言ったら?」
息をきらしながら。セグゥアは、表情を必死に取り繕って言う。
「受けるよ。まあ、あれだけ人のことを恥知らずだと煽っておいて、そんな条件を提示するのは、僕なら恥ずかしくて自殺するけど」
「……っ、言ってみただけだ」
セグゥアは、周囲の目を気にしながら答える。
「なら、早くしてくれないか? 時間、場所、ルール。君が話を進めなければ、食事の時間が終わってしまう」
ヘーゼンは肩をすくめる。
「……決闘は3日後。場所とルールはその場で言う。卑怯な真似をされたら、たまらないからな」
「わかった」
「……」
「もういいかい?」
「なにを企んでいる? お前の魔法使いとしての実力では、俺に勝つことなど、天地が裂けてもできないぞ」
「かもしれないね」
「……っ、なら! なぜ、こんな条件を提示する!? い、今なら土下座して謝れば撤回を許してやらないでもないぞ」
セグゥアが嘲りながら叫ぶ。
ヘーゼンは、またしても、ため息をつき答える。
「僕は絶対に撤回しないし、する気もない。君に謝罪する気もない」
「……っ」
「そして、たとえ、君が土下座しても、泣いて懇願しても、負け犬のポーズになって腹を見せても、絶対に撤回しない」
「……っっ」
「仮に君が負けたら、まずは僕の犬として躾けてやろう。登校時に首に縄をつけて、餌はもちろん地べたに這いつくばって。その無駄に高い自尊心をバッキバキにへし折ってやる。そうすれば、少しはマシな人間性になるだろう」
「……っ、かはぁ」
セグゥアは言葉を失った。
こいつは、いったい、なにを言っているのだ。なにからなにまで
「もう、いいかい? 朝食の時間は限られているのだから、僕ここら辺で会話を打ち切らせてもらう」
そう宣言して。
再び、ヘーゼンはカク・ズに向かって魔杖の話をし出した。
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