職員会議(2)
ダーファンの発言で、会議室に不穏な雰囲気が流れる。それは、例年にないほど不気味なものだった。通常、才能に溢れる生徒の存在は歓迎すべき存在だ。いや、むしろこの会議はそのためのものであると言っていい。
「たまたまじゃないですか? もしくは、他の魔杖工がすでに製作していたとか」
教師の一人が楽観的に答えるが、ダーファンは明確にそれを否定する。
「……これを見た後、ありとあらゆるツテを当たりましたが、こんな設計の魔杖は確認できませんでした。当然です。そもそも、
名工と呼ばれる者が製作する魔杖は、特注品が大前提である。同じ機能の魔杖が存在するなど恥以外のなにものでもない。当然、
「なにをそんなに戸惑っているんです? 要するに、天才ということでしょう?」
「……天才?」
ダーファンはマクジンガルの顔をジロリと睨む。
「な、なんですか? なにが不満なんですか?」
「あなたの言う天才とは、一度教えただけですべてを覚えてしまったり、教えたことが人の10倍できてしまったり、そんなもんでしょう!? だったら、まったくの初心者が知るよしもない高度な技法を開講数時間で暴くのは? それが自分が手も足もでない師の熟練したそれだったら? あなたはそれを天才と定義するのか?」
「……それは」
「異常だよ。このような所業は天才とは言わない。異常というのですよ」
あまりにも切羽詰まったようなダーファンの言葉と形相に、思わずマガジンガルが黙る。
一方で、能天気なバレリアは気にしない。成績表を見ながら、楽しげにつぶやく。
「まー、なんにせよ面白い生徒がいると言うことだな……おや、技能的な成績はパッとしないものだ」
「ふむ。そこまでの生徒であれば実技でも光るものがあるものだがな。ダーファン先生も、昔はかなりの暴れん坊でしたからね。その点、ヘーゼンとは違う」
理事長のヴォルトが静かに視線をむけた。経験豊富な理事長は、敢えてダーファンを持ち上げることで、その不安を払拭しようとする。
百戦錬磨の彼は、ダーファンの怯えを理解する。彼は教師と言うよりは、優秀な魔杖工だ。より優秀な弟子を引き取ることは、工房全体の利益となるが、優秀過ぎる弟子は自身の地位を脅かす。ダーファン自身が若いことも、その焦燥感をもたらしていると推測する。
それを聞いて、ダーファンも少し落ち着きを取り戻した。ヘーゼンの成績表を眺めながら、黙って腕を組む。
「……確かに、実技の成績は並の並ですね。特記することもなく、平々凡々と言うか」
「そうですね。我が校では、学力というのは2の次だ。とにかく、1にも2にも実技。ダーファン先生の意見は貴重だが、そう考えると我々がそこまで特別視する生徒ではないのかもしれないな」
「まあ、魔杖工というのは特殊な仕事なので。なんらかの特殊なバックボーンを持つことで起きた稀有な事例かもしれません」
「……」
口々に楽観論が飛び交う。所詮は、魔杖工という平民職の限定的な才能。それならば、特記すべきほどのことでもない。教師たちの心根にはそんな想いが見え隠れする。
「……」
ここで一人、震えながら沈黙を貫いている男がいる。教師のタゴル=シツカミである。2度と聞きたくなかった『ヘーゼン』という単語が飛び交っている。
彼こそが、ヘーゼンの魔力測定時に不正を働いた張本人だった。
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