鎧の王様

逢津翠

計画

「この計画が成功すれば、この国は救われるわ」

 髪を後ろで無造作に縛った女が言った。女は周りにいる期待に満ちた目をする二十数名の精鋭達を見て、満足げに頷いた。

「必ず成功させて、戻ってくるから」

 その言葉に、ざわめきが広がる。どうやら周りが想像していた言葉とはかなり違ったようだ。先ほどの期待に満ちた目は、今や寧ろ抗議の目に変わっていた。

「エー姉が行かなくたっていいだろっ!」

 誰かが叫んだ。そうだそうだという声が続く。

「私はリーダーよ?私が行かなくてどうするのよ。言わば私はこの計画の首謀者なんだから」

「そんな言い方辞めてくだせぇ!自分が!」

「あなたは絶対失敗するから!私が!」

「お前も駄目だ!僕が!」

 次々と挙がる立候補の声に、エー姉と呼ばれた女は溜め息をついた。

「私を疑う気?」

「疑うわけじゃ…ないっすけど…」

 じゃあ決まりね、と女が声をあげようとした時、とある青年の声がそれを遮った。

「俺が行くよ」

 凛とした声は、人を魅了する力があるようで、その場の空気が変わったのを女は感じた。

「兄さん方も姉さん方も知ってるでしょ?俺、そういうの得意なんだよね~」

「あなたはまだ若いじゃない。こんな重荷背負わせらんないわよ」

 女の言葉に青年は「エー姉だって随分と若く見えるけど?」と軽い口説き文句のようなことを言って笑った。

「エー姉」

 それから急に真顔になって言う。

「わかるでしょ?勝率は…確実に俺の方が高い。エー姉より俺の方が出来る」

 その言葉を多分言いたくなかったんだろうな、と女は思った。根は優しいこの子のことだ。だが実際、それは事実であった。

「アール…」

 女は青年の名前を呼んだ。

「私の力不足ね…ごめんなさい」

 青年はにっこりと笑った。

「任せて下さい、リーダー!」

 その屈託のない笑みは本物なんだろうか。行かせたくなかった、大人びた子だからこそ。女は胸を支配する不安をかき消したくて、青年の頭をゆっくりと撫でた。

「無事に、帰って来なさい」

「もちろん、アルファベットに誓う」


 アルファベット__それは反政府組織である。

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