第29話 火事場泥棒と勇者は同じ

再び時間を動かす。


「もう逃がさねえぞ…。ん?なっ、俺の銃は何処だ!」

「お前、銃を落としたなら早く拾え!」

「ああ、くっそどこ行きやがった!」

「まったく…。無い。」などと、兵士達が声をあげていた。


(…ん?あれは…?)


施設の桟橋を走っているとちょうどよく小舟があった。


「これを使って、あの船に近づいていけば…。」

(…イリスを置いて、1人でも逃げられるな。違う、そうじゃない。そんなことを考えるな…。)


「…行くしかないよな。」

舟を係留していたロープを切って、舟を放した。

そして、また世界を止めて俺は舟を漕ぎ船に乗り込んだ。


(…イリスは、どこだ?)

船の上には船員が何十人もおり、皆それぞれ各持ち場についている。

遠くからではよく見えなかったが、副砲が14門あった。


(…今のうちに、壊しておくか。)

そう思い、直人はストレージから雷神の槌を取り出して副砲を壊した。


「これで、よしっと…。砲身さえ破壊しておけば撃てないよな…。」

(確か機関部を破壊した方が中で弾が暴発して砲身も裂けるんだっけ。…でも、そんなことできないしな。砲身を取り換えられたら困るけど…まあ、大丈夫だろう…。床に穴が空いているけど俺には関係ないし…あとは弾薬庫でも探しておくか。)


そうして、堂々と船員の間をくぐり抜けて船の中を探索する。

弾薬室、ボイラー、船員室他、いくつかの部屋を覗いたり侵入を繰り返したがどこにもイリスの姿は見当たらない。


「…ここは、貨物室かな?」

直人が探索を続けていると大きな部屋に着いた。

中には、木箱が山積みされていた。

また、いくつかの木箱は開けられており藁のようなものが辺りに散らばっていた。

取れている木箱のふたには何やら文字が書いてあった。


「何だろうこれ?開けてみるか…。」


中には外で見た兵士が持っていた銃が二丁入っていた。

さらに、よく見ると箱の底の方には小さな木箱が四つ所狭しと銃と藁の下に敷き詰められていた。


「…なるほど、とりあえず貰って置いて…ってことは、ここにある木箱のほとんどに銃が入っているのか…。」


時間はあるので確認してみたところ、貨物室にあった荷物三分の一がこの箱と同じ文字が書かれた物だった。


「…貰っておくか…あとの木箱はなんだろうな。」っと、おもむろに木箱を開けて見ると中には缶詰やビスケット、淡水、果物、レモンが描かれた瓶、嗜好品、紅茶、香辛料が入っていた。

…ビスケットは虫に食われたと思われるものや、衛生面から見て食いたくなくなる物があったのでやめておいた。

だが、とりあえず大丈夫そうな物は箱ごとストレージの中に放り込み、代金とばかりに火炎瓶二本(もちろん、火のついた物)を投げ込んでおいた。

そのため、この後すぐに残りの主砲とボイラーを破壊しなければならなくなったことは言うまでも無かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る