第25話 運命
「ところで、直人さん?」
「うん?どうしたの?」
「あっ、いえ…何でもありません。」
「…いや、あのさあ、ここからしばらく話せなくなるから聞きたいことがあったら…。」
「そうですね、すいません。」っと、彼女は心配そうに俺に言葉を返した。
作戦はすでに伝えてある、問題は俺の予想通りにことが運べるかだ。
最悪の場合、俺は彼女を捨てて逃げ出すことになる。
まあ、正教会とか市民解放軍とかが支配していない場所があることもわかっているからどうにかなるし、それに…人生には諦めが重要だ。
とはいえ、今は彼女と一緒に逃げることだけを考えていればいい。
「それじゃあ、ここから二手に別れよう。」
「はい。」
「一人でも壁は壊せるよね?」
「できます、ご心配には及びません。ところで、あなたはどうやって壁を壊すのですか?」
「ダイナマイト…まっ、魔法かな?」
「そうですか、では加護魔法をおかけしますね。」
「「魂こそ力なれ(ルコープアメリレーション)」」
そう、彼女は口にした。
身体が軽くなるのを感じた。
思い切って脚を高く上げて少し動いてみた。
重くなっていた身体は、疲れを感じることもなく機敏に動けるようになった。
「どうですか?」
「ありがとう、なんかいい感じだ。」
「そうですか、それは良かったです。」
「ところで、君はどうやって壁を壊すの?」
「今、唱えた加護魔法を使って素手で壊します。」
「…マジ?」
「はい?マジとは?」
「あっいや…マジカル…そう魔術的だなって思って!」
「そうですか?」
「あっ、はい。」
…なんか…いや、イリスって結構ヤバい人だよな。
今に始まったことじゃないにしろ。
少なくとも今の俺なら勝てる…まあ、それともかく。
イキってる場合じゃないしな。
とりあえず、ここは協力をするだけしてその後、すぐに彼女から離れた方がいいよな。
そう直人は、思った。
「それじゃあ。」
「はい、お任せください。」
そう言って俺と彼女は離れ各々の役割を果たすことになった。
しばらく歩いて正教会の施設に近づいた。
遠くからよくは見えなかったがどうやらこの施設はまだ作りかけのようだった。
しかし、よく見ると建物の新旧が良くわかる。
イリスが言っていたように戦争になる前に交易の拠点として栄えていた港であったことが疑える。
そして、魚市場であっただろう場所には今、魚の代わりに木樽や木箱が並んでいて時折、布張りの天井から抜ける月明かりがそれを照らし出していた。
「さてと、そろそろ始めますか。」
そうして、俺はわざわざ町へ行ってまで用意した弓をつがえる。
火炎瓶自体には、発火能力がないため調理用のガスバーナーで布に火を付ける。
この作業は簡単なわけもなく、ストレージを開いた状態のままこの動作をする。
なお、もともと調理用ガスバーナーはライターやチャッカマンとは違いすぐに付けたり消したりはできない。
そのため、少し離れたところに火をつけっぱなしのまま放置している。
そして、最後に弓を引く動作をする際にストレージを解除するため指で肩をなぞる。
最初の一射目はかがり火で照らされている荷物置き場に向かって放った。
続いて二本目、三本目、四本目、五本目と同じ所に放ち、移動する。
そして、俺は地面を駆け下りていくように施設の方へ走った。
明かりのない暗い道なき道を駆け、壁に到達した。
イリスは、素手で壊すと言っていたが少なくとも俺はできるかどうかが怪しいので、またストレージを開き、アイテム「「雷神の槌」」を選択した。
「…重いな、これ。とりあえず、これでも喰らいやがれ~!」っと、覇気も何も感じさせない俺の声が正教会の兵士におそらく聞こえたであろう。
もしくは、壁を破壊した際の音に消されたのであろう。
だが、なんであろうと直人は一枚目の壁を壊すことに成功したのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます