その中に、俺はいただろうか。



暑い夏である。

ジリジリと照りつける光に、俺はすっかり参ってしまっていた。


「あーあ、アイスクリームでも食いてぇもんだけどなぁ」

チャリチャリとポケットの中から音が聞こえてくる、なーんて訳があるはずはない。


まず、学校に金を持ってきたら即没収されるとのことだ。無理だ、無理無理。


「いやぁ、でも、俺なら…」


俺はそこら辺の店先にぽつんと立っていた自動販売機の下を覗き込んで、手を突っ込む必要があるかどうか吟味した。

うーん、1円もなしか。こりゃついてねーや。


「あのぅ、何かお困りですか?」

その時、ふと、そんな声がかかった。

俺が顔を上げると、俺と同じくらいの背の高さの少女が立っている。


「あ、いや、あのっ、別に、そゆんじゃなくてぇ」


俺は慌てて弁明する。

てか、自販機の下を見るなんて、目的は一つしかないだろうに。バカなのか?こいつ。普通、そんなことをしている人を見つけたら、そっとして、足音も立てずに過ぎ去っていくのが正解なんじゃないのか?それか、さっさとお金を….….。


「はい、これ、要りますか?」

「うぉぉおぉ……」


目の前に差し出されたのは、千円札。

俺の瞳孔はかっかと開き、ヨダレはダクダクと口の中へたまり、でもそっちへ伸びそうに…


「ダメだ。それは受け取れない」

「えっ、なんでですか?」


少女は、本当に不思議そうな顔をして首をかしげる。

こやつ、何も知らないんだな。


「お金の貸し借りはいけませんっ!みんなそう言ってる」

「………」


少女は少し黙ったかと思えば、ぱっと笑って、「なーんだ、そんなことか」と言った。

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