暗くなってきました。

二人はそれまで辛抱強く息を潜めて時を過ごしていたのです。

いくら日陰だとは言え、外はジリリと焼けるような暑さが揺らめいていました。

汗を滴らせて、腹もペコペコで、それでもずっと歯を食いしばって、ここまできたのです。


「ねぇ、そろそろ……」

「ちょっと待ってったら。完全に真っ暗になってから行動しなきゃ。」


チミィはジャックの手の甲を上から押さえつけます。


「でも、多分あいつらもどこかに行ったよ……。」

「あとほんの少しだから。日が沈んで、星がいくつか見え始めたら、行動すればいいじゃない」


チミィがそう諭した時、サァッと電光がどこかから放たれました。


「わっ、まただ。少しばかし多過ぎなんじゃないか?」

「そりゃそうよ。あんな事件があったんだから」

「まぁ、そうだけどさ」


もう何回目かになる見回りが行われます。

二人は、それをドキドキして見守らなければなりません。


(駅員も、さほど必死に探し回っているようじゃないみたいだな)

ジャックはそう思いました。


もし仮に、自分が見回りをしなければならないとして、果たして本気で敵を探すでしょうか。


見つけてしまったら、撃たれるかもしれません。その恐怖にめげずに、細々とした所まで目を行き届かせることができるのは、とても普通の人とは思えません。


また、運の良いことに、この場所は、木の周りに、別の植木が茂っているのです。

背は低いのですが、ちょうど二人が身を屈めればすっぽり埋めてくれるくらいの。


というわけで、またしても懐中電灯の明かりは二人の上を通過していきました。

真横を駅員が歩いて過ぎていきます。その一瞬は、身悶えしたくなるほど濃密なのでした。


そして、引き返してきた駅員が、もう一度二人のそばを通り、駅舎へ帰っていきます。


「ふー。」

ジャックは息を吐いて、肩の力を抜きました。案外、ここは隠れ場所に最もふさわしいのかもしれません。追っ手がまだいたとしても、ここなら容易に入っては来れないでしょう。でも、残念ながら、水や食料などの面倒までは見てくれないのです。


「あと少しね。30分くらいかしら」

疲れ切った声でチミィがつぶやきました。

上を見ると、どうです、一番星、いえ、四番星くらいはチラチラと見えているでしょうか。とにかく、もう夕方も終わりを告げようとしていたのです。


ジャックはすぐにでも走り出したかったのですが、これまでチミィの忠告を聞いていなければうなったか分からない状況が幾度も続いていたので、懸命にそれを抑えました。


また、ぼんやりと時間は二人を残して流れていきます。

小柄なカラスが、ガアガアと濁った音を出しながら飛んでいきました。虫捕りに夢中になっていて、寝床へ帰るのを忘れていた、という風な慌てぶりです。


ブン、と羽虫が飛んで、どこかでカエルの鳴く声が聞こえました。

どんどん暗さは増してきているようで、空気は青く染まったあと、黒々とさえし始めました。でも、まだチミィは動こうとしません。注意深いのは良いこと、なんだろうけど、と、ジャックは眉を動かしました。


……………カチ、チカチカ、チッ

と、それらの自然音に混じって、急に向こうの天井からかすかな音がします。


ジャックとチミィがすぐにそこを振り返ったところで、パチっと明かりが消えました。


(…消灯時間なんだ)

ジャックは隣の線路に安置されている貨物車を見ました。

列車は既に寝息を立てているようで、運転手も車掌の気配もありません。静かに降車して去っていったのでしょう。


闇はいよいよ深く押し付けてきました。

骨の浮き出た体をきしませてくるようにさえ、思います。

チミィの姿も輪郭を失っていたので、思わず彼女の腕を触って見たほどでした。


「準備はいい?」

やっと、チミィが口を開きます。

「もちろん」ジャックは笑いました。「いつでもオッケーさ。持ち物は体ひとつだけだからね」








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