@01391364

第1話

そこでは、ある実験が行われていた。

ガラス瓶を大きくしたような容器には、ゴポゴポと緑色の液体が息を吐き出し、その中に人間が詰められているのであった。

「もう少しだぞ」

一人の研究者が息を詰める。

周りの者も期待に胸を躍らせ、見守り続ける。

そして、とうとう、容器は割れた。

ーーーーー



「…分かった」

男は、別段なんのことはないという風に頷いた。

「ありがたい。もう君しかいなかったのだ」

「何をバカな」

だが、その白ひげをたくわえたおじいさんに対して、彼は反抗的であった。

いや、そうでもないのかも知れない。この男は、純粋に、「替えならいくらでもいるだろうに」と呟いたのだ。

ーーーーー




森の中で、俺はゆっくりと歩を進めた。

一見なんの気配もない茂みであるが、俺にはその後ろに隠れている人間を察知することができた。

そこで、どう攻撃しようか思案した挙句、手にしていた鉄棒で、ぶん、と思い切りその人間に突き立てた。


「ぎゃっ」という短い声とともに、そいつは倒れた。

だが、俺は間髪入れずに、その茂みを飛び越えて、倒れていた男の喉元に躍りかかり、すぐに掻き切って絶命させた。


「これが、研究結果そのものだ。お前は、生まれ変わったのだよ」

爺さんの声が、ゆっくりとこだましていた。

ーーーーー



森はそれほど長くはなかった。

砂漠にひたひたと侵されていたからである。

地面はさっきと打って変わってジリジリと熱く、空気はぬらぬら濡れるように揺れている。


「こんな所を進まなきゃいけねぇのか」

俺は思わず顔をしかめたが、ひとまず足の裏をつけてみた。


「………わあ、熱くない」

俺はそう言って苦笑いした。

声がかなり低くて気持ちが悪い。

こんなの、俺の声帯じゃねぇ。

ま、仕方ないか。命あるだけまだマシだ。


俺は後ろを見つめた。

はるかかなたに、細くたなびく煙が見えた気がした。

ーーーーー




砂漠は長い。広い。どこまでも続いている。

俺は、ねっとりと絡んでくる熱気を振り払うように足を前に出していく。

「この世界を破壊してくれ」とあのジジイは言っていた。

あいつの命令を聞きたいとは思わないが、今の体なら確かにできるかもしれない。

あの強硬な研究室だって瞬く間に崩れ去ったのだから。


地面にイモリが這っていた。

そいつを捕まえて、尻尾だけを掴み、宙吊りにする。

そいつは、体をくゆらせ、もがきにもがいていた。

俺はそれをせせら笑うと、勢いよく口の中に放り込み、咀嚼し、飲み込んだ。

ゴリゴリした食感だと外見から判断していたが、そんなことはなく、身は柔らかかった。ブニュッとしていたのは、あれは内臓だろうか。


空には俺を監視するように一話のハゲタカが飛んでいた。

倒れたら食うつもりなのかもしれない。だが、残念なことに俺は元気いっぱいだ。あいつが疲れて降りてきたら逆に噛みちぎってやろう。


そう思いつつ、ふと前を見ると、町が見えた。

砂を乾燥させて作ったような、いや、石レンガかもしれない、とにかく真っ白な家々が立ち並ぶ、小さな町が。


俺はそこへ向かって駆け出した。

もしかすると、今日は野宿をしないで済むかもしれない。もっとも、俺は今まで野外で寝たことはないので、それがどんなに辛いのか、あるいは楽なのか、全然分からなかった。


だが、一向にその町は近づいてこない。

むしろ遠ざかっている気さえする。

俺は一旦立ち止まって、頭をごつんと叩いた。

もしかすると、体よりも頭の回転スピードが速くなっていて、遅く感じているのかもしれない。


そしてまた走って行ったが、やはり街にはたどり着けない。

あれは蜃気楼というものだったのだ、と気がつく前に、俺はもっとさらに先の、海に着いていた。


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